
年齢と確率から考える
「希望する性別の胚を得るには、何個の卵子が必要ですか?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。
しかし、現在の医学では「何個採卵すれば希望する性別の移植可能胚が得られる」という一律の基準はありません。
体外受精では、採卵した卵子がすべて移植できる胚になるわけではないからです。採卵後には、卵子の成熟、受精、胚盤胞への発育という複数の段階があります。さらにPGT-Aを行う場合には、胚盤胞から細胞を採取して染色体を調べ、その結果を踏まえて移植する胚が検討されます。
性染色体に関する情報を胚選択に利用できる国や医療機関では、こうした過程を経たうえで、希望する性染色体を持つ胚があることも必要になります。
そのため、必要な卵子数を「男の子と女の子はおよそ半分ずつだから」という単純な計算だけで求めることはできません。
採卵した卵子がすべて胚になるわけではない
体外受精では、採卵できた卵子の数と、最終的に移植候補となる胚の数は同じではありません。
採取した卵子の中には未成熟なものが含まれることがあります。成熟した卵子について受精を試みても、すべてが正常に受精するわけではありません。
さらに、受精した胚を培養しても、そのすべてがPGT-Aを行える胚盤胞まで発育するとは限りません。
PGT-Aを行う場合には、胚盤胞から採取した細胞について染色体を解析します。その結果、正倍数性と判定される胚もあれば、異数性やモザイクなどと判定される胚もあります。
つまり、採卵から最終的な移植候補胚に至るまでには複数の段階があり、そのたびに候補となる数が変わります。
例えば10個の卵子を採取できたとしても、10個すべてが移植候補になるわけではありません。
年齢によって結果が変わるのはなぜ?
必要となる卵子数を考えるうえで、特に大きく関係するのが採卵時の女性の年齢です。
女性の年齢が上がるにつれて、胚の染色体異数性の割合が高くなる傾向があることが知られています。
ASRMが2024年に公表したPGT-Aに関する委員会見解では、ある臨床試験について、検査された胚の異数性率が35歳未満では52.0%、35~40歳では64.5%だったことが紹介されています。
ただし、この数字は特定の研究に参加した患者の結果です。すべての35歳未満の人に52.0%という数字がそのまま当てはまるわけではありません。
胚の染色体状態には年齢との関連がありますが、実際の治療結果には個人差があります。
年齢別に「必要な卵子数」は決まっている?
現在の医学では、「30歳なら何個」「35歳なら何個」「40歳なら何個」というように、希望する性染色体を持つ移植可能胚を得るために必要な卵子数について、すべての人に適用できる基準はありません。
年齢と必要な成熟卵数の関係を予測しようとする研究は行われています。
2024年には、2,660件のIVF・PGT-A治療周期のデータを用いて、少なくとも1個の正倍数性胚盤胞を得るために必要となる成熟卵数を女性の年齢から予測する研究が報告されました。
この研究では、年齢が上がるにつれて、少なくとも1個の正倍数性胚盤胞を得るために必要と予測される成熟卵数が増加する傾向が示されました。
ただし、このような予測モデルは個人の結果を保証するものではありません。
したがって、こうした研究は治療計画を考える際の参考にはなりますが、「この年齢なら何個採卵すれば大丈夫」と断定するための数字ではありません。
年齢が上がると移植候補胚を得にくくなる
一般的には、年齢が若いほど正倍数性胚の割合は高く、年齢が上がるにつれて異数性胚の割合が高くなる傾向があります。
そのため、比較的若い年齢では、少ない採卵数から正倍数性胚が得られる場合があります。しかし、若ければ必ず希望する性染色体を持つ移植候補胚が得られるという意味ではありません。
30代後半になると、年齢の上昇に伴って異数性胚の割合が高くなるため、採卵できた卵子数だけではなく、最終的に何個の胚盤胞ができ、そのうち何個が正倍数性と判定されるかがより重要になります。
40代では、正倍数性胚を得ること自体が難しくなる場合があります。さらに希望する性染色体という条件を加えると、該当する移植候補胚が得られないこともあります。
ただし、同じ年齢でも採卵数や受精、胚の発育状況などには個人差があります。年齢だけで治療結果を予測することはできません。
希望する性別なら単純に半分になる?
「XXとXYなら、およそ半分ずつになるのでは」と考えるかもしれません。
しかし、移植候補となる胚の半分が必ず希望する性染色体になるわけではありません。
集団全体では出生時の男女比はおおむね均衡していますが、胚盤胞の段階では性比にわずかな偏りが報告された研究もあります。また、PGT-Aを行った胚を対象とした研究では、胚盤胞の発育速度や形態と性比との関連が報告されています。
さらに、個々の治療で得られる胚は数が限られているため、偶然による偏りも生じます。
そのため、「正倍数性胚が2個あれば、XXとXYが1個ずつ得られる」と考えることはできません。
希望する性染色体を持つ胚が得られる可能性を考える場合には、単純に「移植候補胚の半分」と計算するのではなく、実際に得られた胚の検査結果を確認する必要があります。
同じ10個の卵子でも結果は違う
必要な卵子数を一つの数字で示せない理由は、採卵から胚移植までの各段階に個人差があるためです。
同じ年齢で、同じ10個の卵子を採取できた2人がいたとしても、その後の結果が同じになるとは限りません。
成熟卵の割合、受精率、胚盤胞までの発育率などが異なれば、PGT-Aを行える胚の数も変わります。さらに、PGT-Aを行った胚のうち何個が正倍数性と判定されるかにも違いがあります。
卵巣予備能や精子の状態、胚培養の状況なども治療結果に関係します。
そのため、採卵数だけを見て治療の結果を判断することはできません。
「卵子10個あれば大丈夫」とはいえない
男女産み分けについて、「卵子が10個あれば十分」「15個採卵すれば希望する性別の胚が得られる」といった一律の数字を示すことはできません。
少ない卵子数から希望する性染色体を持つ正倍数性胚が得られる場合もあります。
反対に、多くの卵子を採取できても、正常に受精する胚が少なかったり、胚盤胞まで発育する胚が少なかったり、PGT-Aで正倍数性胚が得られなかったりする場合があります。
さらに正倍数性胚が得られても、その胚が希望する性染色体を持っているとは限りません。
必要な卵子数を考えるときには、採卵数だけではなく、その後にどれだけの成熟卵、受精胚、胚盤胞、正倍数性胚が得られる可能性があるのかを段階的に考える必要があります。
PGT-Aをすれば出産率も上がる?
PGT-Aで正倍数性胚を選択できることと、体外受精治療全体として出産できる可能性が必ず高くなることは同じではありません。
ASRMは2024年の委員会見解で、PGT-Aをすべての体外受精患者に一律に行うことの有用性は確立されていないとしています。
近年の無作為化比較試験でも、一定の条件を満たす患者について、PGT-Aによる累積出生率の改善が示されなかった研究があります。
一方で、年齢や患者背景などによっては、移植する胚の選択などの面でPGT-Aが役立つ可能性も研究されています。
そのため、PGT-Aのメリットと限界は、年齢や治療歴、得られた胚の数などを踏まえて個別に考える必要があります。
結局、何個の卵子が必要なの?
希望する性染色体を持つ移植可能胚を得るために、「卵子が何個あれば大丈夫」という医学的に確立された数字はありません。
年齢が上がるほど、一般的には正倍数性胚を得るために必要となる成熟卵数が増える傾向があります。しかし、実際の結果には大きな個人差があります。
さらに、正倍数性胚が得られても、その中に希望する性染色体を持つ胚が含まれているとは限りません。
そのため、体外受精による男女産み分けを考える場合には、単純な採卵数だけではなく、採取した卵子のうち何個が成熟し、何個が受精し、何個が胚盤胞まで発育し、そのうち何個がPGT-Aで移植候補となるのかという流れで考える必要があります。
そして、希望する性染色体を持つ移植候補胚が得られた場合でも、その胚を移植すれば必ず妊娠し、希望する性別の赤ちゃんを出産できるわけではありません。