体外受精では男の子が多くなるって本当?
「体外受精をすると男の子が生まれやすい」と聞いたことがある方もいるかもしれません。実際、研究では、胚盤胞移植や顕微授精(ICSI)など治療方法の違いによって、出生する男児と女児の割合にわずかな差がみられることが報告されています。ただし、その差は個人の赤ちゃんの性別を予測できるほど大きなものではありません。この記事では、IVF・ICSI・胚移植・PGTと出生男女比の関係について、現在の研究をもとに分かりやすく整理します。
「体外受精をすると男の子が生まれやすい」と聞いたことがある方もいるかもしれません。実際、研究では、胚盤胞移植や顕微授精(ICSI)など治療方法の違いによって、出生する男児と女児の割合にわずかな差がみられることが報告されています。ただし、その差は個人の赤ちゃんの性別を予測できるほど大きなものではありません。この記事では、IVF・ICSI・胚移植・PGTと出生男女比の関係について、現在の研究をもとに分かりやすく整理します。

「体外受精をすると男の子が生まれやすい」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
実際、体外受精などの生殖補助医療と出生児の男女比については、これまで多くの研究が行われています。
研究では、胚を移植する時期や、通常の体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の違いなどによって、出生する男児と女児の割合にわずかな差がみられることが報告されています。
ただし、これは集団全体を調べたときにみられる統計上の傾向です。
「体外受精をすれば男の子になる」「治療方法を変えれば希望する性別を選べる」という意味ではありません。
出生時の男女比は、もともと完全な50対50ではありません。
一般に、女児100人に対して男児がおよそ105人前後生まれる傾向があります。割合にすると、出生児の約51%が男児、約49%が女児です。
そのため、体外受精後の出生児で男児の割合が50%を少し超えていたとしても、それだけで「体外受精によって男の子が増えた」と判断することはできません。
一般集団の出生男女比と比較しながら考える必要があります。
体外受精では、受精した胚を2~3日程度培養した「初期胚」で移植する方法と、5~6日程度培養して「胚盤胞」まで発育させてから移植する方法があります。
複数の研究をまとめたメタ解析では、初期胚移植と比較して、胚盤胞移植後では男児の割合がやや高くなる傾向が報告されています。
米国の1万5,000人以上の単胎出生を調べた研究では、初期胚移植後の男児割合は48.9%、胚盤胞移植後では51.6%でした。
この結果からは、「体外受精そのものによって男児が増える」というより、胚をどの発育段階で移植するかが出生男女比と関連している可能性が示されています。
その理由は完全には分かっていません。
研究では、XY胚とXX胚で培養中の発育速度などに違いがあり、XY胚が比較的早く胚盤胞まで発育する可能性が検討されています。
胚盤胞移植では、一定期間培養して発育した胚の中から移植候補を選ぶため、こうした発育の違いが男女比に影響している可能性があります。
ただし、これは原因として確定しているわけではありません。
培養条件や胚の評価方法、患者背景など、複数の要因が関係している可能性があります。
また、胚盤胞まで培養することで胚の性別が変わるわけではありません。XXかXYかは受精時に決まっています。
顕微授精(ICSI)は、1個の精子を卵子の中へ直接注入して受精を試みる方法です。
主に男性不妊や受精障害などがある場合に行われます。
ICSIと出生男女比についても研究が行われており、通常のIVFと比較して男児割合がわずかに低くなる傾向が報告されています。
米国の研究では、胚盤胞移植後の男児割合が、ICSIありで49.6%、ICSIなしで54.9%でした。
また、2023年に凍結融解胚移植後の出生を調べた研究では、男児割合は通常のIVFで53.7%、ICSIでは50.1%でした。
ただし、この結果から「顕微授精をすれば女の子が生まれやすくなる」と考えることはできません。
ICSIを受ける人には男性不妊などの背景があることが多く、治療を受ける患者の条件そのものが男女比と関係している可能性があります。
精子の状態、父母の年齢、胚の発育状況など、さまざまな要因が影響する可能性もあります。
そのため、研究でICSIと男女比の関連が確認されても、ICSIという操作そのものが男児の割合を下げていると断定することはできません。
新鮮胚移植と凍結融解胚移植についても、出生男女比との関係が研究されています。
ただし、この点については研究結果が一貫していません。
新鮮胚か凍結胚かだけではなく、初期胚か胚盤胞か、IVFかICSIか、患者の年齢や治療背景など、複数の条件が同時に関係するためです。
そのため、「凍結胚なら男の子が多い」「新鮮胚なら女の子が多い」と一律に説明することはできません。
着床前遺伝学的検査(PGT)では、体外受精によって得られた胚から細胞を採取し、染色体などを調べます。
検査の種類によっては、性染色体に関する情報が得られる場合があります。
米国の2014~2016年のデータでは、IVFによる出生全体では女児100人に対して男児107人でした。
一方、PGTを使用した出生では男児115人に対して女児100人、性別選択を目的としてPGTを行った場合には男児164人に対して女児100人と、男児側への偏りが報告されています。
ただし、これはPGTという検査そのものが男児を増やしたという意味ではありません。
性染色体に関する情報を確認したうえで、移植する胚が選択されたことが出生男女比に影響したと考えられます。
日本では、PGTの取り扱いは米国とは異なります。
日本産科婦人科学会のPGT-Aに関する患者向け資料では、通常、患者に伝えるのは常染色体に関する情報であり、性染色体に関する情報は原則として開示しないとされています。
その理由についても、いわゆる男女の産み分けがPGT-Aの目的ではないためと説明されています。
そのため、日本で行われている通常のPGT-Aを、希望する男女を選択するための検査として考えることは適切ではありません。
研究を見ると、初期胚移植より胚盤胞移植後で男児割合がやや高く、ICSIでは通常のIVFより男児割合がやや低くなる傾向が報告されています。
しかし、これらは集団全体を調べたときに確認される数%程度の違いです。
例えば、ある条件で男児割合が54%だったとしても、女児が生まれる割合は46%あります。
また、研究によって対象となる患者や治療方法、培養条件なども異なります。
そのため、研究で報告された男女比をもとに、個人の赤ちゃんについて「男の子になる」「女の子になる」と予測することはできません。
胚盤胞移植やICSIは、希望する性別を選ぶための治療ではありません。
ICSIは男性不妊や受精障害などを考慮して行われ、胚盤胞移植についても、得られた胚の数や発育状況、これまでの治療歴などを踏まえて選択されます。
出生男女比にわずかな違いが報告されているからといって、希望する性別を目的として治療方法を変更するための根拠にはなりません。
現在の研究から分かっているのは、「体外受精をすると男の子が生まれやすい」という単純な関係ではありません。
より正確には、体外受精による出生児の男女比には、受精方法や胚を移植する発育段階などによって、わずかな違いがみられることがあります。
しかし、その差から個人の赤ちゃんの性別を予測することはできません。
体外受精の治療方法は、希望する性別ではなく、妊娠・出産につながる可能性や医学的な必要性を踏まえて選択することが基本となります。