強いストレスがあると女の子が増える?
「強いストレスを受けると、女の子が生まれやすくなる」という説があります。実際、阪神・淡路大震災などの大きな災害や社会的・環境的ストレスの後に、出生する男児の割合が一時的に低下したと報告する研究があります。ただし、すべての研究結果が一致しているわけではなく、ストレスによって赤ちゃんの性別を選べることも確認されていません。この記事では、災害後の出生データやシステマティックレビューなどをもとに、ストレスと出生男女比の関係について分かりやすく解説します。
「強いストレスを受けると、女の子が生まれやすくなる」という説があります。実際、阪神・淡路大震災などの大きな災害や社会的・環境的ストレスの後に、出生する男児の割合が一時的に低下したと報告する研究があります。ただし、すべての研究結果が一致しているわけではなく、ストレスによって赤ちゃんの性別を選べることも確認されていません。この記事では、災害後の出生データやシステマティックレビューなどをもとに、ストレスと出生男女比の関係について分かりやすく解説します。

「強いストレスを受けると、女の子が生まれやすくなる」という説を目にすることがあります。
実際、地震などの自然災害や感染症の流行、経済的に厳しい時期など、大きな社会的・環境的ストレスの後に、出生する男児の割合が一時的に低下したと報告する研究があります。
しかし、すべての研究で同じ結果が得られているわけではありません。出生性比が低下した研究がある一方で、変化がみられなかった研究や、反対に男児割合が上昇した研究もあります。
現在の医学からは、ストレスによって希望する性別の赤ちゃんを産み分けられるとはいえません。
この記事では、阪神・淡路大震災などの研究や、出生男女比とストレスとの関係を調べた研究をもとに、現在どこまで分かっているのかを整理します。
出生統計では、一般に男児が女児よりわずかに多く出生します。
男児と女児の出生割合を表す指標として「出生性比」が使われます。研究によって表し方は異なりますが、男児出生数と女児出生数の比率や、出生児全体に占める男児の割合などを用いて比較します。
災害や感染症、経済危機などと赤ちゃんの性別との関係を調べる研究では、こうした大きな出来事の前後で出生性比が変化したかが分析されています。
ただし、そこで確認される変化は、何千人、何万人という集団全体でみた割合の変化です。
個人について「強いストレスを受けたから女の子になる」と予測できるものではありません。
日本では、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災と、その後の出生男女比との関係を調べた研究があります。
1998年に『Human Reproduction』に発表された研究では、兵庫県の出生データが分析されました。
その結果、震災から約9か月後にあたる1995年10月の出生児について、出生児全体に占める男児の割合は0.501でした。
これは、1993年1月から1996年1月までのデータから求めた期待値0.516より低く、統計学的にはP=0.04と報告されています。
研究者は、大規模な自然災害による急性ストレスが出生性比の低下と関係した可能性を示しました。
ただし、この研究は兵庫県全体の出生統計を使った研究です。
個々の女性がどの程度の心理的ストレスを感じたかを測定し、その強さと出生児の性別を直接比較した研究ではありません。
そのため、「強い心理的ストレスを受けると女児になる」と直接証明した研究ではありません。
海外でも、地震と出生性比との関係が調べられています。
1999年8月にトルコで発生した東部マルマラ地震について、1997年から2002年までの公的な出生統計を使った研究が2013年に発表されました。
この研究では、地震の影響を受けた地域と影響を受けなかった地域について、出生児に占める男児の割合が月ごとに比較されました。
その結果、被災地域では、地震後4か月目と8か月目に出生性比が有意に低下していました。
研究者は、大地震のような突然の強い出来事が出生性比に影響する可能性を指摘しています。
一方で、地震後には心理的ストレスだけでなく、生活環境、医療へのアクセス、食事、睡眠、人口移動など、多くの条件が同時に変化します。
そのため、心理的ストレスだけが出生男女比を変化させたと断定することはできません。
自然災害や感染症など、大きなストレスを伴う出来事と出生性比との関係については、複数の研究が行われています。
2024年に『American Journal of Human Biology』に掲載されたシステマティックレビューでは、自然災害や感染症、パンデミックと出生性比との関係を調べた研究がまとめられました。
最終的に25研究が解析対象となり、そのうち16研究では出生性比の低下、つまり男児出生の相対的な減少が報告されました。
一方で、3研究では出生性比の上昇、4研究では変化なし、2研究では相反する結果が報告されています。
つまり、多くの研究で男児割合の低下が報告されているものの、結果は一貫していません。
研究者も、対象となった人口、分析期間、情報源、統計手法、交絡因子の扱いなどが、研究結果の違いに影響した可能性を指摘しています。
したがって、「災害や強いストレスの後には必ず女児が増える」という法則が確立されているわけではありません。
ストレスと出生性比との関係を説明する仮説の一つとして、男性の胚や胎児が、一部の厳しい妊娠環境に対して影響を受けやすい可能性が研究されています。
ノルウェーの出生データを使った大規模研究では、出生児の性別と妊娠期間、妊娠転帰との関係が分析されました。
その結果、妊娠期間全体を通じて、男児の周産期死亡率が女児より高い傾向が報告されています。
こうした男女差から、環境的なストレスが加わった場合に、男性胚や男性胎児の妊娠が相対的に影響を受けやすくなり、出生時の男児割合が低下する可能性が仮説として考えられています。
ただし、これは出生性比の変化を説明する仮説の一つです。
「ストレスによって男性胎児が選択的に失われる」という仕組みが、人間で確定したわけではありません。
受精、着床、胎盤機能、ホルモン、免疫反応、胎児死亡など、複数の段階が関係する可能性が研究されていますが、詳しい仕組みはまだ明らかになっていません。
ストレスや母体の状態と出生男女比との関係を説明するとき、「トリヴァース=ウィラード仮説」が取り上げられることがあります。
これは、親の状態や環境によって、男児と女児への生物学的な投資が変化する可能性を説明する進化生物学上の仮説です。
人間についても、この考え方を検証する研究が行われてきました。
2019年に発表された米国のデータを使った研究では、スペイン風邪や世界恐慌といった環境的に厳しい時期に、男児が出生する可能性が低下する傾向がみられました。
一方で、母親自身の社会経済的状態と出生性比との関連については、トリヴァース=ウィラード仮説を支持する結果は得られませんでした。
つまり、「母親の状態が悪ければ身体が女児を選ぶ」といった単純な説明は、研究によって確立されたものではありません。
ストレスと出生性比との関連を支持しない研究もあります。
2021年に『Human Reproduction』に発表された研究では、スウェーデンの1749年から1991年まで、243年間にわたるデータが分析されました。
研究者は、経済状況や気候など複数の社会的・環境的指標を母体ストレスの代理指標として使い、出生性比との関係を検討しました。
その結果、ほとんどのストレス指標について、出生性比との統計学的に有意な関連は確認されませんでした。
一部の期間では関連がみられた指標もありましたが、トリヴァース=ウィラード仮説から予測される方向とは反対でした。
この結果からも、「ストレスが強くなるほど女児が増える」という一貫した関係が確認されているとはいえません。
地震や感染症の大流行のような社会全体に影響する出来事と、仕事、家庭生活、妊活などで感じる日常的なストレスを同じものとして考えることはできません。
災害が起こると、心理的負担だけでなく、睡眠、食事、住環境、経済状態、医療へのアクセス、感染症への曝露など、多くの条件が同時に変化します。
そのため、出生統計に変化がみられたとしても、それが心理的ストレスだけによるものかを判断することは容易ではありません。
また、日常的なストレスには個人差があります。
同じ出来事でも、感じるストレスの強さや持続時間は人によって異なります。
現在の研究から、「仕事が忙しいと女の子になる」「妊活中に悩みが多ければ女児が生まれやすい」と判断できる医学的根拠はありません。
出生男女比に関する研究の多くは、人口集団全体について統計的な変化を調べています。
そのため、個人の妊娠について、経験したストレスが赤ちゃんの性別を決めたと判断することはできません。
集団全体で男児の出生割合がわずかに変化したとしても、それは一人ひとりについて性別を予測できるという意味ではありません。
ストレスを経験したからといって必ず女児になるわけでもなく、男児の妊娠が継続できなくなるという意味でもありません。
現在の研究では、ストレスを利用して女の子が生まれる確率を実用的に高められることは確認されていません。
阪神・淡路大震災や東部マルマラ地震の後に男児の出生割合が低下した研究はあります。
一方で、2024年のシステマティックレビューでは、出生性比が低下しなかった研究や、逆に上昇した研究も確認されています。
さらに、243年間のスウェーデンのデータを分析した研究でも、ほとんどのストレス指標と出生性比との明確な関連は確認されませんでした。
したがって、ストレスを意図的に増やすことで女児を産み分けられるという医学的根拠はありません。
また、産み分けを目的として睡眠時間を減らしたり、過度に仕事を増やしたり、食事を制限したりすることを正当化する研究結果もありません。
強い社会的・環境的ストレスと出生男女比との関係については、長年研究が続けられています。
自然災害や感染症の流行、経済的に厳しい時期などの後に、男児の出生割合が一時的に低下したとする研究は複数あります。
阪神・淡路大震災や東部マルマラ地震でも、そのような変化が報告されています。
一方で、すべての研究結果が一致しているわけではありません。
2024年のシステマティックレビューでも結果にはばらつきがあり、長期間のデータを分析しても明確な関連が確認されなかった研究があります。
また、出生性比が変化するとしても、その詳しい生物学的な仕組みは確定していません。
現在の医学から最も慎重にいえるのは、強い社会的・環境的ストレスと出生男女比との間に関連を報告した研究はあるものの、因果関係や仕組みは確立しておらず、ストレスによって自然妊娠で希望する性別を選べることは確認されていないということです。