流産しやすさは男の子と女の子で違う?
「男の子のほうが流産しやすい」「女の子の胚のほうが強い」と聞くことがあります。実際、胎児の性別によって妊娠中の一部のリスクに違いがみられることは研究されています。ただし、その差は妊娠時期によって変わり、男児と女児のどちらかが常に流産しやすいとはいえません。この記事では、受精から出生までの男女比の変化や、死産リスク、染色体異常、PGT-Aとの関係について、研究結果をもとに分かりやすく解説します。
「男の子のほうが流産しやすい」「女の子の胚のほうが強い」と聞くことがあります。実際、胎児の性別によって妊娠中の一部のリスクに違いがみられることは研究されています。ただし、その差は妊娠時期によって変わり、男児と女児のどちらかが常に流産しやすいとはいえません。この記事では、受精から出生までの男女比の変化や、死産リスク、染色体異常、PGT-Aとの関係について、研究結果をもとに分かりやすく解説します。

「男の子のほうが流産しやすい」「女の子の胚のほうが強い」と聞くことがあります。実際、胎児の性別によって妊娠中の一部のリスクに違いがみられることは研究されています。
しかし、受精直後、妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期では、男性胚と女性胚の損失パターンが異なる可能性があります。そのため、「男の子のほうが妊娠中ずっと流産しやすい」と単純に説明することはできません。
また、早期流産の大きな原因は性別ではなく、胚の染色体異常です。現在の医学から最も慎重にいえるのは、胎児の性別によって妊娠経過に違いがみられる可能性はあるものの、男児と女児のどちらかが妊娠全体を通じて一貫して流産しやすいとは確認されていない、ということです。
一般的なXX・XY型では、X染色体を持つ精子が受精すると一般にXX、Y染色体を持つ精子が受精するとXYの胚になります。
出生統計では、一般に女児より男児がわずかに多く生まれます。では、受精した時点から男性胚のほうが多いのでしょうか。
2015年に『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に発表された研究では、受精から出生までの人間の男女比について、大規模なデータを用いた分析が行われました。その結果、受精時の性比はおおむね均等であると推定されています。
一方で、男性胚と女性胚が失われる割合は妊娠期間を通じて一定ではなく、妊娠の時期によって変化する可能性が示されました。つまり、出生時に男児がわずかに多いからといって、受精した瞬間から男性胚が多いとは限りません。
受精から出生までの男女比を分析した研究では、男性胚と女性胚のどちらが多く失われるかは、妊娠期間を通して一定ではないと考えられています。
非常に早い段階では男性胚の損失が相対的に多い可能性がある一方、その後の時期には女性胚の損失が相対的に多くなる時期もあると推定されています。さらに、妊娠後期になると再び男性胎児の死亡が相対的に多くなる傾向が示されています。
ただし、受精直後や着床前後の妊娠は、本人が妊娠に気づく前に終了することがあります。そのため、受精したすべての胚について性染色体を直接調べ、その後の経過を追跡することは現実的にできません。
受精から出生までの男女別の損失率には、現在も推定に頼らざるを得ない部分があります。
流産した胚や胎児について性別を調べた研究は以前から行われています。
1987年に発表された研究では、3,469件の自然流産が分析されました。その結果、形態的に正常だった胚や胎児では男性が多く、全体の男女比は男性対女性で1.25、形態的に正常なものでは1.30だったと報告されています。
一方、形態異常がみられた胚や胎児では、男女比はほぼ同程度でした。
この研究は、特定の流産群では男性胚や男性胎児が多い可能性を示しています。ただし、流産した組織だけを調べた研究から、「すべての妊娠で男児の流産率が高い」と結論づけることはできません。
妊娠週数や染色体異常の有無、胚の形態などによって結果が変わるためです。
妊娠後期については、男性胎児のリスクがやや高いという比較的一貫した報告があります。
2014年に発表されたシステマティックレビューとメタ解析では、3,000万件を超える出生データが分析されました。その結果、死産率は男児で出生1,000件あたり6.23、女児では5.74でした。
統合した相対リスクは1.10で、男性胎児の死産リスクは女性胎児より約10%高いと報告されています。
ただし、これは集団全体でみた相対的な差です。「男の子を妊娠すると高い確率で死産する」という意味ではありません。
胎児の性別と妊娠中の合併症との関係についても研究されています。
2020年に発表されたシステマティックレビューとメタ解析では、74研究、1,250万人を超える妊娠が分析されました。その結果、胎児の性別によって一部の妊娠合併症との関連に違いがみられることが報告されています。
ただし、すべての合併症が男性胎児で増えるわけではありません。ある合併症では男性胎児との関連がみられる一方、別の合併症では女性胎児との関連がみられるなど、結果は単純ではありません。
胎児の性別によって胎盤の発育や機能、母体への影響に違いが生じる可能性は研究されていますが、それだけで流産の男女差を説明できるわけではありません。
妊娠後期の死産や一部の周産期成績では、男児のほうが不利な結果を示す研究があります。そのため、「女児のほうが生物学的に強い」と表現されることがあります。
しかし、妊娠初期まで含めて考えると男女差はもっと複雑です。妊娠時期によって男性胚と女性胚の損失割合が変化すると推定されており、女性胚の損失が相対的に多い時期もあります。
そのため、「男の子は必ず流産しやすい」「女の子の胚は必ず強い」という説明は、現在の研究結果とは一致しません。
流産を考えるうえで最も重要なのは、胎児の性別よりも染色体異常です。
米国産婦人科学会(ACOG)は、早期流産のおよそ50%が胎児の染色体異常によるものと説明しています。英国王立産婦人科医会(RCOG)も、流産や反復流産の最も一般的な原因は妊娠した胚に生じた染色体異常であり、約半数の流産に関係するとしています。
人の細胞には通常46本の染色体があります。卵子や精子が作られる過程などで染色体の数に異常が生じると、受精後の胚が正常に発育できず、流産につながることがあります。
こうした異常の多くは偶然生じるものです。そのため、流産を経験した場合に「男の子だったから流産した」「女の子だったから流産した」と考えることは適切ではありません。
流産リスクに強く関係する要因の一つが母体年齢です。
年齢が上がるにつれて卵子の染色体異常が増え、流産率も上昇します。ACOGは、臨床的に確認された早期流産の頻度について、20~30歳では約9~17%、35歳では約20%、40歳では約40%、45歳では約80%と説明しています。
RCOGも、年齢とともに流産リスクが上昇することを示しています。
流産の可能性を考える際には、胎児の性別だけでなく、年齢や染色体異常などの影響を考えることが重要です。
流産を繰り返す場合には、染色体以外の要因も検討されます。
子宮の形態、抗リン脂質抗体症候群、甲状腺などの内分泌の問題、夫婦いずれかの染色体構造異常などが関係する場合があります。また、検査を行っても明確な原因を特定できないケースもあります。
そのため、反復流産について「男児を妊娠したから流産した」と性別だけで説明することはできません。
一般的な流産では性別が主な原因ではありませんが、特定の遺伝性疾患では性染色体が重要になる場合があります。
例えば、X染色体上にある病的な遺伝子が関係するX連鎖性疾患では、XXとXYで影響の現れ方が異なることがあります。疾患によってはXYの胚や胎児で症状が重くなり、妊娠継続に影響する場合もあります。
ただし、これは特定の遺伝性疾患についての話です。一般的な流産全体を「男児だから起こった」と説明するものではありません。
妊娠初期では、超音波検査だけで胎児の性別を判断することは通常できません。
一方、流産した組織について染色体やDNAを調べる検査を行った場合、XXやXYなどの性染色体が分かることがあります。
ただし、流産組織には母体の細胞が混ざることがあります。特に46,XXという結果については、実際には胎児由来ではなく母体組織を測定していた例が報告されています。
そのため、検査結果を解釈する際には、母体細胞の混入についても考慮する必要があります。
また、XXまたはXYと判明したとしても、それだけで性別が流産原因だったと判断することはできません。原因を考える場合には、染色体全体の数や構造、妊娠週数、超音波所見などを合わせて判断します。
体外受精では、移植前の胚について染色体数を調べるPGT-Aが行われることがあります。
PGT-Aでは、胚の一部の細胞を採取して染色体数を調べます。その過程で、X染色体やY染色体を含む性染色体の情報が得られる場合があります。
ただし、PGT-Aを行えば流産を完全に防げるわけではありません。ACOGは、着床前遺伝学的検査には偽陽性や偽陰性があり、正常という結果であっても遺伝的な異常のない出生児を保証するものではないと説明しています。
また、胚にはモザイクが存在する場合があり、採取した一部の細胞の結果が胚全体を完全に反映するとは限りません。子宮や胎盤、母体の状態など、染色体以外の要因でも着床しなかったり流産したりすることがあります。
現在の医学では、「流産を防ぐために女児を選ぶ」「男児を避ければ妊娠が継続しやすくなる」という考えを支持する医学的根拠はありません。
妊娠後期の死産では男性胎児のリスクがわずかに高いことが報告されていますが、受精から出生までを見ると、男女の損失割合は妊娠時期によって変化します。
また、早期流産の大きな原因は染色体異常であり、年齢など性別以外の要因も大きく関係します。
胎児の性別は、妊娠経過に関係する可能性のある多くの要素の一つにすぎません。
男性胚と女性胚では、受精から出生までの生存パターンに違いがある可能性が研究されています。妊娠後期の死産については、男性胎児のリスクが女性胎児より約10%高いという大規模なメタ解析があります。
一方、妊娠初期まで含めると男女差は単純ではなく、妊娠時期によって男性胚と女性胚の損失割合が変化する可能性があります。
そして、早期流産の大きな原因は胎児の性別ではなく、胚の染色体異常です。
現在の医学から最も慎重にいえるのは、胎児の性別によって妊娠中の一部のリスクに違いがみられることはあるものの、「男の子のほうが常に流産しやすい」「女の子の胚のほうが常に強い」とはいえず、希望する性別を選ぶことで流産を防げることも確認されていないということです。