
パーコール法・スイムアップ法・フローサイトメトリーの違い
「X精子とY精子を分ければ、男の子・女の子を選べるのでは?」と考える方は少なくありません。実際、不妊治療では精子を処理したり、状態のよい精子を選んだりする技術が使われています。ただし、「良い精子を選ぶこと」と「男の子・女の子につながる精子を選ぶこと」は同じではありません。
人工授精や体外受精で一般的に使われるスイムアップ法や密度勾配遠心法は、主に運動性などを基準に精子を整える方法です。これらによって希望する性別を正確に選べることは確認されていません。一方、X精子とY精子のDNA量の差を利用するフローサイトメトリーでは、どちらか一方の精子の割合を高めることができます。ただし、100%の選別ではなく、妊娠や出産そのものを保証する方法でもありません。
X精子とY精子は何が違う?
一般的なXX・XY型では、精子はX染色体またはY染色体のどちらかを持っています。X精子が受精すると一般にXX、Y精子が受精するとXYの胚になります。
産み分けについては、「Y精子は速い」「X精子は重くて長生きする」といった説明がよく知られています。しかし、現在の研究では、X精子とY精子の運動速度や寿命などに、産み分けへ利用できるほど明確で一貫した差があるとは確認されていません。
一方、はっきりしている違いの一つがDNA量です。X染色体はY染色体より大きいため、ヒトのX精子はY精子より約2.8%多くDNAを持っています。この小さな違いを利用するのが、フローサイトメトリーによる精子選別です。
スイムアップ法で男の子を選べる?
スイムアップ法は、不妊治療で広く使われている精子調整法です。精液から自力で泳いできた運動性の高い精子を回収し、人工授精や体外受精などに使用します。
「Y精子のほうが速く泳ぐため、スイムアップをすると男の子につながる精子が増える」と説明されることがあります。しかし、その前提となる「Y精子のほうが速い」という特徴自体が確立していません。
実際、スイムアップの前後でX精子とY精子の割合を調べた研究では、処理前後で大きな差は確認されませんでした。つまり、スイムアップ法は運動性のよい精子を選ぶための方法であり、男児・女児を選ぶための方法ではありません。
パーコール法・密度勾配遠心法とは?
密度勾配遠心法も、不妊治療で使われる代表的な精子調整法です。密度の異なる液体を重ね、その中で精液を遠心することで、運動性や形態などが比較的良好な精子を回収します。過去にはPercollという分離液が使われることが多かったため、「パーコール法」と呼ばれることがあります。
X精子とY精子にはDNA量の違いがあるため、密度にも差があるのではないかと考えられ、産み分けへの応用が研究されてきました。一部の研究では、処理後にX精子の割合が少し増えたことが報告されています。例えば、ある研究では処理後のX精子が約55%まで増えました。
しかし、この程度の変化では、希望する性別を実用的に選べるとはいえません。研究者自身も、産み分けへ臨床利用できるほど十分な差ではないと評価しています。
アルブミン法なら男の子が増える?
精子の泳ぐ速さの違いを利用しようとした方法として、「アルブミン法」または「エリクソン法」があります。濃度の異なるアルブミン液の中を精子に移動させ、速く泳ぐと考えられていたY精子を多く集めようとする方法です。
過去には男児の出生割合が高くなったとする報告もありました。しかし、その後、X精子とY精子を染色体レベルで直接調べられるようになると、アルブミン法によってY精子が十分に濃縮されるという結果は一貫して再現されませんでした。そのため、アルブミン法による産み分け効果が医学的に確立しているとはいえません。
フローサイトメトリーは何が違う?
スイムアップ法や密度勾配遠心法と大きく違うのが、フローサイトメトリーです。この方法では、X精子とY精子のDNA量の差を直接利用します。
精子のDNAを蛍光色素で染め、一つずつ機械を通して蛍光の強さを測定します。X精子はY精子よりDNA量が多いため、わずかに強い蛍光を示します。この差を使って、X精子を多く含む集団、またはY精子を多く含む集団を作ります。
人で臨床研究が行われた代表的な技術がMicroSortです。
MicroSortではどのくらい選別できた?
2014年に発表されたMicroSortの大規模研究では、4,993組のカップルが登録し、7,718回の精子選別が行われました。
女児を希望するXSortでは、選別後の精子の平均87.7%がX精子でした。男児を希望するYSortでは、平均74.3%がY精子でした。つまり、100%ではありませんが、通常ほぼ半数ずつ存在するX精子とY精子の割合を大きく偏らせることはできました。
実際に生まれた子どもの性別では、XSort後の93.5%が女児、YSort後の85.3%が男児でした。フローサイトメトリーでは、希望する性別になる確率を高められることが研究で確認されています。
「女児93.5%」は妊娠率ではない
ここで最も誤解しやすいのが、93.5%や85.3%という数字です。これは、「精子選別を受けた人の93.5%が女の子を出産できた」という意味ではありません。
精子を選別した後も、人工授精や体外受精によって妊娠する必要があります。同じ研究では、臨床妊娠率は人工授精で14.7%、IVF・ICSIで30.8%、凍結胚移植で32.1%でした。
つまり、「希望する性別になる確率」と「妊娠する確率」は別の数字です。X精子を多くしても必ず妊娠するわけではなく、妊娠しても流産する可能性があります。最終的に出産まで至るかどうかには、年齢、卵巣機能、精子所見、胚の染色体、子宮の状態など多くの要因が関係します。
フローサイトメトリーにも限界がある
フローサイトメトリーを使っても、希望する性染色体の精子だけを完全に集めることはできません。XSort後にもY精子は残り、YSort後にもX精子が残るため、希望とは異なる性別の赤ちゃんが生まれる可能性があります。
また、選別処理を行うと利用できる精子数が少なくなります。MicroSortの臨床研究では、処理前には平均約2億2,000万個の運動精子があったのに対し、選別後に利用できた精子数は平均約17万9,000個でした。
そのため、精子の状態や治療方法によっては、人工授精ではなく体外受精や顕微授精との組み合わせが検討される場合があります。
安全性はどうなの?
フローサイトメトリーでは精子DNAを蛍光色素で染色し、レーザーを使って測定するため、安全性についても研究されてきました。
MicroSortの臨床試験では、出生児の重大な先天異常が明らかに増えるという結果は示されませんでした。また、受精率や流産率などについても、選別していない精子を使った生殖補助医療と大きく異なる結果ではなかったと報告されています。
ただし、これは特定の技術について得られた研究結果です。すべての精子選別技術について同じ安全性が確認されているわけではなく、長期的なデータにも限界があります。
「良い精子を選ぶ技術」と産み分けは別
現在の不妊治療には、精子を選ぶさまざまな技術があります。例えば、精子の形態を高倍率で確認する方法や、成熟度、DNA損傷、運動性などを基準に精子を選ぶ方法があります。
これらの目的は、受精や妊娠に適した精子を選ぶことであり、X精子とY精子を分けることではありません。つまり、「高度な精子選別を行っています」という説明だけでは、男女産み分けができる技術なのかどうかは分かりません。
精子選別とPGTは何が違う?
精子選別とPGTでは、性染色体を確認する段階が異なります。フローサイトメトリーによる精子選別は、受精する前にX精子またはY精子の割合を高めます。そのため、希望とは異なる性別になる可能性が残ります。
一方、PGTは体外受精によってできた胚から細胞を採取し、染色体などを調べる検査です。PGT-Aでは染色体数を解析するため、技術的には性染色体に関する情報も得られます。
ただし、日本産科婦人科学会のPGT-A・PGT-SRに関する説明では、男女の産み分けを目的とした検査ではなく、性染色体の情報も原則として患者へ開示しないとされています。そのため、日本におけるPGT-A・PGT-SRを、医学的理由のない男女産み分けのための方法として考えることは適切ではありません。
「精子選別」という言葉だけでは判断できない
産み分けを検討する際には、「精子選別」という言葉だけで判断しないことが重要です。スイムアップ法や密度勾配遠心法も精子選別と呼ばれますが、目的は運動性や形態の良い精子を集めることです。
一方、フローサイトメトリーは性染色体に由来するDNA量の差を利用して、X精子またはY精子の割合を高めます。
さらに、「成功率」という数字にも注意が必要です。選別後のX精子・Y精子の割合なのか、妊娠率なのか、出生率なのか、出生した赤ちゃんのうち希望する性別だった割合なのかで意味はまったく異なります。「女児93%」という数字だけを見て、「93%の確率で女の子を出産できる」と受け取るのは正確ではありません。
精子を選別すれば産み分けできる?
現在の研究では、精子選別の方法によって結論が異なります。
スイムアップ法は運動性の高い精子を回収する方法であり、X精子とY精子を産み分けに使えるほど分離できることは確認されていません。密度勾配遠心法やパーコール法についても、X精子の割合がわずかに増えた研究はありますが、実用的な産み分けに使えるほどの差ではありません。アルブミン法についても、十分な再現性は確認されていません。
一方、DNA量の差を利用するフローサイトメトリーでは、X精子またはY精子の割合を大きく偏らせることができます。MicroSortの大規模研究では、XSort後に生まれた子どもの93.5%が女児、YSort後では85.3%が男児でした。
ただし、100%ではなく、この数字は妊娠率や出生率でもありません。
現在の医学から最も慎重にいえるのは、一般的な精子調整法であるスイムアップ法や密度勾配遠心法によって希望する性別を実用的に選べることは確認されていない一方、DNA量を利用するフローサイトメトリーではX精子・Y精子の割合を変え、希望する性別になる確率を高めることはできるものの、完全な選別ではないということです。