
AMH・超音波・精液検査からPGT前の確認まで
男女産み分けを目的として海外で体外受精や胚の性染色体情報を利用する治療を検討する場合でも、すぐに採卵へ進むわけではありません。まず、卵巣が刺激にどの程度反応しそうかを確認する検査、子宮や卵巣の状態を確認する超音波検査、男性側の精液検査などを行い、体外受精を安全に進めるための情報を集めます。
ただし、必要な検査は全員同じではありません。年齢、月経周期、妊娠・出産歴、過去の不妊治療、持病、使用中の薬、利用する国や医療機関などによって異なります。
また、日本ではPGT-AやPGT-SRは男女産み分けを目的とした検査ではありません。日本産科婦人科学会では、PGT-A・PGT-SRにおける性染色体情報は原則として患者へ開示しない運用となっています。そのため、男女産み分けを目的として体外受精を検討する場合には、治療を受ける国や施設の制度・倫理規定を確認することが重要です。
この記事では、体外受精を始める前にどのような検査が行われることがあるのか、それぞれの検査から何が分かり、何が分からないのかを現在の医学的知見をもとに解説します。
最初に行うのは問診と治療歴の確認
検査を選ぶ前に、まずこれまでの経過を確認します。一般的には、年齢、月経周期、最終月経、妊娠・出産・流産歴、婦人科疾患、手術歴、持病、アレルギー、使用中の薬などが確認されます。
過去に体外受精を受けたことがある場合には、卵巣刺激に使用した薬、採卵数、成熟卵数、受精数、胚盤胞まで発育した胚の数、胚移植後の経過なども重要な情報になります。
実際に卵巣が刺激にどの程度反応したかという過去の治療結果は、次の刺激方法を考えるうえで参考になります。
男性側についても、既往歴、手術歴、服薬、発熱などの体調変化、過去の精液検査、不妊治療歴などを確認します。
さらに、本人や家族に遺伝性疾患がある場合や、過去の妊娠・検査で染色体について指摘を受けたことがある場合には、その情報も重要です。
卵巣予備能を確認する検査
体外受精の採卵では、卵巣を刺激して複数の卵胞を育てます。そのため、治療前には卵巣が刺激にどの程度反応しそうかを予測するために、卵巣予備能の検査を行うことがあります。
代表的なものが、AMH、胞状卵胞数、FSH、エストラジオールなどです。
ASRMは、AMHや胞状卵胞数は卵巣刺激後に得られる卵子数や卵巣反応の予測には有用である一方、妊娠や出生の可能性を単独で正確に予測するものではないとしています。
AMH検査では何が分かる?
AMHは「抗ミュラー管ホルモン」と呼ばれるホルモンです。卵巣内の発育途中の卵胞から分泌され、採血によって測定します。
AMHは、卵巣刺激を行ったときにどの程度の卵胞が反応し、どのくらいの卵子を採取できそうかを予測する材料の一つになります。刺激に使用する薬の量や方法を検討するときにも参考にされます。
一方で、AMHが示しているのは主に「卵子の数に関係する指標」です。
AMHが高いから卵子の質がよい、妊娠しやすい、希望する性別の胚が得られやすいという意味ではありません。反対に、AMHが低いから妊娠できないという意味でもありません。
ASRMも、AMHやAFCは採取できる卵子数の予測には有用ですが、卵子の質、臨床妊娠率、出生率との関係は弱いとしています。
また、年齢は治療結果を考えるうえで非常に重要な要素です。AMHだけで将来の妊娠可能性を判断することはできません。
胞状卵胞数(AFC)とは?
胞状卵胞数は、経腟超音波検査を使って卵巣に見える小さな卵胞の数を確認する検査です。英語のAntral Follicle Countを略してAFCと呼ばれます。
一般的には月経周期の早い時期に、左右の卵巣に存在する小さな卵胞を数えます。
AFCもAMHと同じように、卵巣刺激にどの程度反応しそうか、採卵数がどの程度期待できそうかを考えるための指標です。
ASRMでは、AMHとAFCはいずれも現在使用されている代表的な卵巣予備能の指標とされています。
ただし、AFCについても卵子の質や胚の性別を判断する検査ではありません。年齢、AMH、過去の刺激結果などと組み合わせて評価します。
FSH・エストラジオールを測定することもある
FSHは卵胞刺激ホルモン、エストラジオールは卵胞から分泌される女性ホルモンです。
ASRMでは、基礎FSHとエストラジオールを評価する場合、一般に月経周期2~4日目の早期卵胞期に測定するとしています。
FSHは卵巣予備能が低下すると高くなることがありますが、周期ごとの変動があります。また、エストラジオールが高い場合にはFSH値の解釈に影響することがあります。
そのため、一度のFSH値だけで卵巣機能や体外受精の成功率を判断することはできません。
子宮と卵巣を確認する超音波検査
経腟超音波検査では、卵巣の大きさや位置、胞状卵胞数、卵巣嚢腫の有無、子宮筋腫などを確認します。
採卵では超音波で卵胞を確認しながら採卵針を進めるため、卵巣の位置や状態は治療計画にも関係します。
また、将来胚移植を予定している場合には、子宮内膜の状態や、子宮内腔に影響する可能性のある病変がないかを確認することがあります。
通常の超音波検査だけでは子宮内腔を十分に確認できない場合には、生理食塩水を子宮内へ入れながら行う超音波検査や、子宮鏡検査などが追加される場合があります。
すべての人に一律に行うわけではなく、病歴や超音波所見に応じて判断されます。
卵管の検査は全員に必要?
一般的な不妊検査では、子宮卵管造影検査などを使って卵管の通過性を調べることがあります。
ただし、体外受精では卵管内で精子と卵子が出会う過程を経ず、採取した卵子を体外で受精させます。そのため、卵管の通過性を確認する必要性は、自然妊娠や人工授精の場合と同じではありません。
一方で、卵管水腫がある場合には注意が必要です。
ASRMは、卵管水腫が存在するとIVFの妊娠率や着床率などが低下することがあり、胚移植前に卵管切除や卵管閉塞などの治療が検討される場合があるとしています。
そのため、卵管検査が必要かどうかは、病歴、超音波所見、過去の検査、治療計画によって判断されます。
男性側では精液検査を行う
体外受精で胚を作るためには卵子だけでなく精子も必要です。そのため、男性側の基本的な評価として精液検査が行われます。
精液検査では、精液量、精子濃度、運動性、形態などを評価します。
AUAとASRMの男性不妊ガイドラインでも、妊娠を希望するカップルでは男性側の生殖歴の確認と精液検査を行うことが推奨されています。
ただし、精液検査の数値には変動があります。発熱、体調、禁欲期間、採取条件などによって結果が変わるため、異常がある場合には再検査が行われることがあります。
精液検査の結果は、通常の体外受精を行うか、顕微授精(ICSI)を検討するかなどを考える材料になります。
一方、通常の精液検査では、X染色体を持つ精子とY染色体を持つ精子の割合を調べて、赤ちゃんの性別を予測することはできません。
精子濃度や運動率が高いから男児になりやすい、あるいは女児になりやすいという検査でもありません。
感染症などの血液検査
体外受精では、採卵や胚移植を安全に行い、精子・卵子・胚を適切に取り扱うために感染症検査が求められることがあります。
検査項目は国や施設によって異なります。
たとえば英国HFEAでは、生殖補助医療の前にHIV、B型肝炎、C型肝炎の検査が必要と案内されています。渡航歴などによっては、さらに感染症について確認される場合があります。
海外で治療を受ける場合には、「日本で受けた検査結果を使用できるか」「採血日から何か月以内という有効期限があるか」「指定された検査方法や英文書類が必要か」なども確認する必要があります。
このほか、病歴や施設の方針によって、血算、肝機能、腎機能、血液型、甲状腺機能などが確認される場合があります。
これらは男女産み分けのための特別な検査ではなく、体外受精や麻酔、妊娠を安全に進めるための一般的な医学的評価です。
遺伝学的検査が追加される場合
本人や家族に遺伝性疾患がある場合、過去に染色体について指摘されたことがある場合、反復流産など医学的背景がある場合には、追加の遺伝学的検査が検討されることがあります。
ただし、すべての人が一律に染色体検査や遺伝子検査を受けるわけではありません。
着床前遺伝学的検査には目的によって複数の種類があります。
PGT-Mは、特定の単一遺伝子疾患を対象とする検査です。PGT-SRは、染色体の構造的な再配列などを対象とします。PGT-Aは、胚の染色体数の異常を調べる検査です。
ACOGも、PGT-Mは単一遺伝子疾患、PGT-SRは染色体構造異常、PGT-Aは主に染色体の数的異常を評価する検査と整理しています。
これらは目的が異なるため、「PGT」という言葉だけで同じ検査と考えることはできません。
日本ではPGT-Aで男女産み分けはできる?
ここは特に注意が必要です。
日本産科婦人科学会のPGT-A・PGT-SRに関する現在の運用では、男女産み分けはこれらの検査の目的ではありません。
学会資料では、PGT-A・PGT-SRの性染色体解析結果は原則として患者へ開示しないとされています。また、外部検査機関からART施設へ結果を報告するときにも、原則として性染色体情報は除外されます。
性染色体に医学的に重要な異常が認められた場合には、遺伝カウンセリングを行ったうえで情報が扱われることがありますが、希望する男女を選ぶ目的で性別情報を伝える制度ではありません。
そのため、日本国内のPGT-A・PGT-SRと、海外の一部地域で提供される性染色体情報を利用した家族構成の選択、いわゆるfamily balancingは分けて考える必要があります。
海外で治療を検討する場合には、その国の法律だけでなく、医療機関や検査会社の方針についても確認することが重要です。
PGT-Mでは準備に時間がかかることもある
特定の遺伝性疾患を対象とするPGT-Mでは、単に採卵して胚を検査するだけではありません。
対象となる遺伝子変異を確認し、家族の遺伝情報を調べ、検査方法を準備する必要がある場合があります。
日本産科婦人科学会でも、PGT-Mは重篤な遺伝性疾患を対象とする検査として、PGT-AやPGT-SRとは別の見解・細則で運用されています。
そのため、家族歴や遺伝性疾患がある場合には、採卵を開始する前に遺伝カウンセリングや追加検査が必要になることがあります。
治療前検査を受ければ希望する性別の胚が得られる?
治療前の検査は、安全に治療を進め、採卵や受精の計画を立てるために行います。
しかし、検査結果から「希望する性別の胚が得られる」と予測することはできません。
AMHやAFCから、卵巣刺激によって得られる卵子数のおおよその反応を予測することはできます。しかし、採取された卵子がすべて成熟卵とは限りません。
成熟卵がすべて正常に受精するわけでもなく、受精卵がすべて胚盤胞まで発育するわけでもありません。
さらに、PGT-Aを実施する状況で移植候補となる胚が得られたとしても、海外などで性染色体情報を利用できる場合に、その中に希望する性染色体構成の胚が存在するとは限りません。
採卵数、成熟卵数、受精率、胚盤胞到達率、染色体の状態など複数の段階があるためです。
そのため、治療前検査は「希望どおりになるかを判定する検査」ではなく、治療計画と現実的な見通しを考えるための検査です。
検査が多ければ多いほどよいわけではない
体外受精を始める前にはさまざまな検査がありますが、検査項目を増やせば治療成績が必ずよくなるわけではありません。
ASRMも、卵巣予備能検査について、必要以上に複数の検査を行っても予測能力が必ず向上するわけではなく、結果が一致しないことで判断が複雑になる場合があるとしています。
大切なのは、一人ひとりの年齢、病歴、治療目的、過去の治療結果に応じて必要な検査を選ぶことです。
「この検査で何が分かるのか」「結果によって治療計画がどう変わるのか」を確認することが重要です。
海外で治療する場合は検査の有効期限にも注意
海外の医療機関で体外受精を行う場合、日本ですでに検査を受けていても、その結果がそのまま利用できるとは限りません。
施設によって、検査項目、検査方法、結果の有効期限、英文での検査報告書の有無などが異なるためです。
たとえば感染症検査については、「治療開始前○か月以内」といった条件が指定される場合があります。
そのため、先に日本で検査をすべて受けてしまうのではなく、治療を受ける施設から必要検査一覧を受け取り、その内容を確認してから検査する方が再検査を減らせる場合があります。
体外受精前の検査で大切なこと
男女産み分けを目的として海外で体外受精を検討する場合でも、治療前の基本は通常の体外受精と大きく変わりません。
卵巣の反応を予測するAMHやAFC、子宮と卵巣を確認する超音波検査、男性側の精液検査、感染症や全身状態に関する検査などを行い、採卵・受精・胚移植を安全に進めるための情報を集めます。
ただし、AMHが高いから良質な卵子が得られる、精液検査が良好だから希望する性別になる、といったことはありません。
また、PGT-A、PGT-SR、PGT-Mはそれぞれ目的が異なります。特に日本では、PGT-A・PGT-SRは男女産み分けを目的とした検査ではなく、性染色体情報も原則として患者へ開示されません。
現在の医学から最も正確にいえるのは、体外受精前の検査は希望する性別を予測するためのものではなく、卵巣・子宮・精子・全身状態などを評価し、その人に適した治療計画を立てるために行うものということです。
治療を検討する際には、必要な検査項目だけを見るのではなく、その検査の目的、結果の有効期限、海外施設で使用できるか、追加検査が必要になる条件まで確認しておくことが大切です。