
相談・検査・採卵・PGT・胚移植までの流れを解説
海外の一部の国や地域では、体外受精で作成した胚の性染色体情報を利用して、移植する胚を選択する治療が行われています。ただし、相談後すぐに希望する性別の胚を移植できるわけではありません。
実際の治療では、制度や施設方針の確認、治療前検査、卵巣刺激、採卵、受精、胚培養、胚生検、PGT、胚の凍結、移植周期の準備、胚移植という複数の段階があります。
また、採取された卵子がすべて成熟するわけではありません。成熟卵がすべて正常に受精するわけでもなく、受精した胚がすべて胚盤胞まで発育するわけでもありません。PGTを行った場合でも、移植候補となる胚や希望する性染色体構成の胚が得られない場合があります。
この記事では、海外で胚の性染色体情報を利用した男女産み分けを行う場合を想定し、相談から胚移植までに行われる一般的な治療の流れを、現在の医学的知見をもとに解説します。
最初に治療を受ける国と施設の制度を確認する
性別選択に関する法制度や医療機関の運用は国や地域によって異なります。
たとえば英国では、重篤な遺伝性疾患を避ける場合などの医学的理由を除き、社会的理由による性別選択は禁止されています。一方、海外には非医学的な理由による性別選択を提供している地域や医療機関もあります。
治療対象となる年齢、婚姻状況、使用できる卵子や精子、必要書類、同意手続きなどについても施設ごとに条件が異なります。
そのため、男女産み分けを目的とした体外受精の具体的な流れは、治療を受ける国と医療機関によって異なります。
日本のPGT-A・PGT-SRとは目的が異なる
日本で行われているPGT-A・PGT-SRは、男女産み分けを目的とした検査ではありません。
日本産科婦人科学会の「PGT-Aに関する細則」では、PGT-Aの対象として、反復する体外受精・胚移植の不成功、反復流死産、高年齢の不妊症などが示されています。
また、胚の性染色体の解析結果については、解析検査機関から実施施設へ原則として通知しないこととされています。患者への説明についても、性染色体に異常がない場合には性染色体に関する情報を開示しないことが規定されています。
そのため、日本国内のPGT-A・PGT-SRと、海外の一部地域で性染色体情報を胚選択に利用する治療は、目的と運用が異なります。
治療前の検査を行う
体外受精を始める前には、女性側と男性側の医学的評価が行われます。
女性側では、年齢、月経周期、妊娠・出産歴、不妊治療歴、婦人科疾患、手術歴、持病、服薬などが確認されます。必要に応じてAMH、FSH、エストラジオールなどの血液検査や、経腟超音波による卵巣・子宮の評価が行われます。
AMHや胞状卵胞数は、卵巣刺激に対する反応や採卵で得られる卵子数を予測するための指標として使用されています。ただし、AMHや胞状卵胞数だけで卵子の質、胚の染色体構成、妊娠率、出生率を正確に予測することはできません。
男性側では、既往歴や不妊治療歴などの確認とともに精液検査が行われます。精液検査では、精液量、精子濃度、運動性、形態などが評価されます。
施設や国によっては、HIV、B型肝炎、C型肝炎などの感染症検査も治療前に行われます。
卵巣刺激を行う
体外受精では、複数の卵子を採取するために卵巣刺激を行うことがあります。
FSH製剤などの薬剤を使用して複数の卵胞を発育させ、治療中は経腟超音波や血液検査などによって卵胞の発育状況を確認します。
十分に卵胞が発育すると、最終的な卵子成熟を促す薬剤が使用され、その後に採卵が行われます。
卵巣刺激への反応には個人差があります。同じ年齢や同程度のAMHでも、発育する卵胞数や採取できる卵子数が同じになるとは限りません。
採卵を行う
採卵では、一般に経腟超音波で卵胞を確認しながら採卵針を進め、卵胞液を吸引して卵子を回収します。
超音波で確認された卵胞のすべてから卵子が得られるとは限りません。また、採取された卵子がすべて成熟卵であるとは限りません。
採卵数と成熟卵数は異なる数字です。
その後の治療では、成熟した卵子を使って受精を試みます。
IVFまたはICSIで受精を行う
採取した卵子と精子を使って受精を行います。
受精方法には、卵子と精子を同じ培養液内に置いて受精を待つ通常の体外受精(IVF)と、1個の精子を卵子内へ直接注入する顕微授精(ICSI)があります。
どちらの方法が使用されるかは、精液所見、過去の受精結果、検査内容、施設の治療方針などによって異なります。
PGT-Aを行うすべての治療でICSIが必須というわけではありません。一方、特定の単一遺伝子疾患を対象とするPGT-Mでは、外部DNAの混入を減らす目的などからICSIが用いられることがあります。
受精した胚を培養する
受精が確認された胚は、培養器の中で数日間培養されます。
現在のPGTでは、胚盤胞まで発育した胚から細胞を採取する方法が一般的です。
日本産科婦人科学会のPGT-A細則でも、生検する細胞は原則として胚盤胞の栄養外胚葉細胞とされています。
栄養外胚葉は将来主に胎盤を形成する部分です。ACOGも、現在一般的なPGTでは胚盤胞の栄養外胚葉からおよそ5~10個の細胞を採取する方法を説明しています。
ただし、正常に受精した胚のすべてが胚盤胞まで発育するわけではありません。
採卵数、成熟卵数、正常受精数、胚盤胞数はそれぞれ異なります。
胚盤胞から細胞を採取する
PGTの対象となる胚が胚盤胞まで発育すると、栄養外胚葉から少数の細胞が採取されます。
採取した細胞のDNAを増幅し、NGSなどの方法を使って染色体を解析します。
PGT-Aでは、染色体数の異常を調べます。PGT-Mは特定の単一遺伝子疾患、PGT-SRは染色体の構造的再配列を主な対象とする検査です。
これらはすべて「PGT」と呼ばれますが、検査する対象と目的は異なります。
胚を凍結して検査結果を待つ
現在のPGT-Aでは、胚盤胞から細胞を採取した後に胚を凍結保存し、検査結果が出た後に別の周期で胚移植を行う方法が広く用いられています。
ASRMは、現在多くの施設で5~6日目などの胚盤胞を生検し、胚をガラス化凍結した後、別周期の凍結融解胚移植を行っていると説明しています。
検査を行う細胞と、後に移植される胚そのものは別に管理されます。
凍結された胚は、検査結果が得られるまで保存されます。
PGT-Aの結果には複数の判定がある
PGT-Aでは、染色体数が検査上正倍数性と判定される胚、異数性と判定される胚、モザイクが疑われる胚、判定結果が得られない胚などが生じることがあります。
モザイクとは、異なる染色体構成を持つ細胞が同じ胚内に存在すると考えられる状態です。
ただし、PGT-Aで「モザイク」と報告された結果が、その胚全体の細胞構成をそのまま表しているとは限りません。ASRMは、モザイク判定には検査方法、解析基準、培養・生検条件など複数の要因が影響するとしています。
PGT-Aで検査結果が得られない「no result」も発生します。ASRMの2024年委員会意見では、PGT-A後の判定不能結果について0.86~3.8%とした報告が紹介されています。
海外では性染色体情報が報告される場合がある
PGT-AではX染色体とY染色体も解析対象に含まれます。
ACOGは、PGT-Aについて22対の常染色体とX・Y性染色体を含む染色体異数性を調べる検査と説明しています。
海外の一部地域や医療機関では、この性染色体情報が患者に報告され、胚選択に利用される場合があります。一方、日本では、性染色体に異常がない場合の性染色体情報は原則として開示されません。
したがって、PGT-Aで技術的に性染色体を解析できることと、その情報を男女産み分けのために患者へ開示・利用できることは別の問題です。
希望する性別の胚が必ず得られるわけではない
PGT-Aで複数の胚を検査しても、希望する性染色体構成の移植候補胚が必ず含まれるわけではありません。
たとえば採卵した卵子の一部が未成熟である場合があります。その後も、受精しない卵子、胚盤胞まで発育しない胚、PGT-Aで異数性と判定される胚などが生じることがあります。
その結果、PGT-Aまで到達した胚の数が少なくなる場合があります。
さらに、性染色体情報の利用が認められている施設であっても、移植候補となる胚の中に希望する性染色体構成の胚が存在しない場合があります。
治療前のAMHや超音波検査から、この結果を確定することはできません。
PGTは胚全体を直接検査するものではない
PGTでは、胚盤胞全体ではなく栄養外胚葉から採取した一部の細胞を検査します。
そのため、検査した細胞の染色体構成と、胚のほかの部分の染色体構成が完全に一致するとは限りません。
ACOGは、モザイクの存在などによって、栄養外胚葉を検査したPGT結果が胎児になる内部細胞塊の遺伝学的構成を完全には反映しない可能性があるとしています。
また、PGTには偽陽性と偽陰性が生じる可能性があります。
PGT-Aで正倍数性と判定された胚であっても、将来生まれる子どもにすべての遺伝学的異常が存在しないことを保証する検査ではありません。
PGT後の妊娠でも出生前検査は別に扱われる
ACOGは、PGT後に妊娠した場合にも、出生前遺伝学的スクリーニングや出生前診断について説明を行うとしています。
PGTでは検出できない遺伝学的異常があり、偽陽性・偽陰性も起こり得るためです。
出生前診断には、絨毛検査や羊水検査などがあります。出生前スクリーニングには、妊娠中の血液検査や超音波検査などがあります。
PGTと妊娠後の出生前検査は、検査する時期や目的が異なります。
移植する胚が決まった後に子宮内膜を準備する
PGTの結果を受けて移植対象となる凍結胚がある場合、胚移植の周期へ進みます。
凍結胚移植には、本人の排卵を利用する自然周期や、エストロゲンやプロゲステロンなどの薬剤を使用する周期があります。
使用される方法は、月経周期、排卵の状態、病歴、医療機関の治療方法などによって異なります。
超音波検査などによって子宮内膜の状態や排卵時期などが確認され、胚移植の日程が決められます。
凍結胚を融解して子宮内へ移植する
胚移植では、凍結保存されていた胚を融解します。
胚の状態を確認した後、細いカテーテルを使用して胚を子宮内へ移植します。
胚移植後、一定期間をおいて血液中のhCGなどを測定し、妊娠成立の有無を確認します。
PGT-Aで正倍数性と判定された胚や、希望する性染色体構成の胚を移植しても、必ず着床するわけではありません。
また、着床して妊娠が成立しても、すべての妊娠が出産まで継続するわけではありません。
「性別が一致する確率」と「出産できる確率」は別
男女産み分けを目的とする治療では、「希望する性染色体構成の胚が得られること」と「その胚を移植して子どもが出生すること」は同じではありません。
体外受精では、採卵、成熟、受精、胚発育、PGT、胚移植、着床、妊娠継続という複数の段階があります。
それぞれの段階で次へ進まない可能性があります。
したがって、PGTで希望する性染色体構成の胚を確認できた場合でも、それだけで妊娠や出生が保証されることはありません。
1回の採卵で移植まで進まない場合もある
1回の採卵ですべての治療段階を通過するとは限りません。
卵巣刺激を行っても十分な卵胞が発育しない場合、採卵しても成熟卵が少ない場合、正常受精が得られない場合、胚盤胞まで発育しない場合があります。
胚盤胞が得られてPGT-Aを行っても、移植候補となる胚が得られない場合があります。
また、移植候補胚があっても、性染色体情報を利用できる施設で希望する性染色体構成の胚が存在しない場合があります。
このため、男女産み分けを目的とした体外受精でも、採卵から胚移植までが1回の治療周期ですべて完了するとは限りません。
相談から胚移植までには複数の段階がある
海外の一部地域で胚の性染色体情報を利用した男女産み分けを行う場合、一般的には治療前評価の後、卵巣刺激、採卵、受精、胚培養が行われます。
PGTを行う場合には、現在は主に胚盤胞の栄養外胚葉から細胞を採取し、胚を凍結して検査結果を待ちます。
性染色体情報の利用が認められている国や施設では、検査結果に基づいて移植対象となる胚が選択される場合があります。その後、子宮内膜を準備し、凍結胚を融解して胚移植を行います。
一方、採取した卵子がすべて成熟・受精・胚盤胞化するわけではなく、PGTを行っても希望する性染色体構成の移植候補胚が得られるとは限りません。
PGTも胚の一部の細胞を調べる検査であり、偽陽性、偽陰性、モザイク、判定不能などの限界があります。また、胚移植後の着床、妊娠、出生を保証する検査ではありません。
現在の医学的知見から確認できるのは、胚の性染色体情報を利用した男女産み分けは、通常の体外受精に胚生検とPGT、検査結果に基づく胚選択が加わる治療であり、相談から胚移植までには複数の医学的段階が存在するということです。