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卵巣過剰刺激症候群(OHSS)とは?

体外受精で卵巣刺激を受けるときに知っておきたい合併症の一つが、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。OHSSは、排卵誘発薬に卵巣が強く反応することで起こり、腹部の張りや痛み、吐き気などから、重い場合には尿量低下や呼吸困難、血栓症につながることがあります。男女産み分けを目的としてPGTを行う場合でも、採卵数だけを増やすことより安全な卵巣刺激が優先されます。この記事では、OHSSが起こる仕組み、注意したい症状、リスクが高い人の特徴、現在行われている予防策まで分かりやすく解説します。

基礎知識

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採卵前後に知りたい症状と予防

体外受精で卵巣刺激を受けるときに知っておきたい合併症の一つが、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。OHSSは、排卵誘発薬によって卵巣が強く反応することに関連して起こり、腹部の張りや痛み、吐き気などから、重い場合には尿量の低下や呼吸困難、血栓症などにつながることがあります。多くは軽症で改善しますが、重症化すると入院による管理が必要になることがあります。

男女産み分けを目的として体外受精やPGTを検討する場合でも、卵巣刺激そのものの安全管理は通常の体外受精と変わりません。検査できる胚を増やしたいからといって、刺激を強くすればよいわけではありません。この記事では、OHSSがなぜ起こるのか、どのような人でリスクが高くなるのか、採卵後にどのような症状へ注意する必要があるのか、現在行われている予防方法まで解説します。

OHSSとは?

OHSSは「Ovarian Hyperstimulation Syndrome」の略で、日本語では卵巣過剰刺激症候群と呼ばれます。体外受精では、一度の採卵で複数の卵子を得るために、ゴナドトロピン製剤などを使って複数の卵胞を発育させます。その際、卵巣が非常に強く反応すると、卵巣が大きくなるだけではなく、血管の中にある水分が腹腔などへ移動しやすくなることがあります。

その結果、腹部膨満や腹水などが起こり、重症になると血液の濃縮、尿量低下、腎機能への影響、胸水、呼吸困難、血栓症などが生じることがあります。つまりOHSSは、単純に「卵巣が大きく腫れる病気」ではなく、体液の分布が変化することで全身に影響する可能性のある状態です。

OHSSはなぜ起こる?

OHSSの発症には、血管内皮増殖因子(VEGF)が重要な役割を持つと考えられています。卵巣刺激によって多数の卵胞が発育すると、卵巣からVEGFなどが産生されます。とくにhCGの作用を受けると血管透過性が高まり、血管内にある水分が腹腔など血管外へ移動しやすくなります。

これによって腹水や腹部膨満が起こり、血管内の水分が減ることで血液が濃縮することがあります。こうした変化が強くなると、尿量の低下や腎機能への影響、呼吸器症状などにつながることがあります。

OHSSには早く起こるものと遅く起こるものがある

OHSSには、症状が現れる時期によって早発型と遅発型があります。ASRMでは、早発型OHSSはhCGによるトリガー後およそ4~7日ごろから症状が現れることが多いとしています。一方、遅発型OHSSは妊娠成立後に体内で増加するhCGの影響を受けて起こり、一般にトリガーから9日以上経過してから現れるタイプです。

遅発型では症状が強くなったり、経過が長くなったりすることがあります。そのため、採卵が終わった時点でOHSSの可能性が完全になくなるわけではありません。

OHSSになりやすい人はいる?

卵巣刺激を受ける人であればOHSSが起こる可能性はありますが、リスクが高くなることが知られている条件があります。ASRMでは、PCOS、過去のOHSS、AMH高値、胞状卵胞数(AFC)が多いことなどを、治療前に確認できるリスク因子として挙げています。

また、刺激を開始した後に多数の卵胞が発育している場合、エストラジオール値が高い場合、多くの卵子が採取されると予測される場合もリスク上昇と関連します。ただし、一つの検査値だけでOHSSになるかどうかを決めることはできません。AMHが高い人が必ずOHSSになるわけではなく、特定の数値以下なら絶対に起こらないということでもありません。年齢、卵巣予備能、PCOSの有無、過去の刺激への反応、今回の卵胞発育などを合わせて判断します。

採卵後の普通の痛みとOHSSはどう違う?

採卵後には、軽い下腹部痛や腹部の張り、少量の出血などが起こることがあります。そのため、採卵後にお腹が少し張っているだけでOHSSとは限りません。一方、OHSSの初期症状と通常の採卵後の不調は似ていることがあります。

重要なのは、症状が時間とともに改善しているのか、それとも強くなっているのかという変化です。腹部の張りや痛みが強くなっている、吐き気や嘔吐が続いて水分を取れない、尿量が減っている、急速に体重や腹囲が増えている、息苦しさがあるといった場合には、OHSSを含めた評価が必要になることがあります。

OHSSではどんな症状が起こる?

軽症では、腹部の張りや違和感、軽い腹痛、吐き気などがみられることがあります。症状が進むと、腹水によって腹部膨満が強くなり、腹痛や嘔吐が起こる場合があります。

重症になると、強い脱水感、尿量の低下、呼吸困難などがみられることがあります。胸腔に水分がたまることで呼吸へ影響する場合もあります。また、OHSSでは血液が濃縮することなどによって血栓症のリスクが高まることがあります。片脚だけが腫れる、胸痛、突然の息苦しさなどがある場合には、血栓症も含めた緊急の評価が必要になることがあります。

どんな症状なら医療機関へ連絡する?

採卵後の症状については、治療施設から示された連絡基準を優先します。一般的には、腹部の張りや痛みが強くなっている、繰り返し嘔吐して水分を取れない、尿量が明らかに減っている、急速に腹囲や体重が増えている、息苦しさや胸痛がある場合などには、治療施設への連絡が必要になります。

強い呼吸困難、激しい胸痛、失神、意識状態の変化などがある場合には、緊急の医療評価が必要です。海外滞在中で治療施設へすぐ連絡できない場合には、現地の救急医療機関を利用することも必要になります。

医療機関では何を調べる?

OHSSが疑われる場合には、症状の経過や水分摂取量、尿量などを確認します。血圧、脈拍、呼吸状態などを調べ、超音波検査によって卵巣の大きさや腹水の有無を確認することがあります。

血液検査では、血液濃縮の程度、電解質、腎機能、肝機能などが評価されることがあります。呼吸困難や胸痛がある場合には、胸水や血栓症などを確認するため、追加の検査が必要になることがあります。

軽症なら自宅で経過を見ることもある

OHSSのすべてが入院治療になるわけではありません。症状が軽く、全身状態が安定している場合には、医療機関の指示のもとで自宅や宿泊先で経過を観察することがあります。

一方、水分摂取が難しい、嘔吐が強い、強い痛みがある、尿量が少ない、呼吸状態や腎機能に問題があるなどの場合には、入院管理が必要になることがあります。RCOGも、多くのOHSSは自然に改善する一方、重症例では入院による専門的な治療が必要になるとしています。

OHSSに「水をたくさん飲めばよい」は正しい?

OHSSでは体液のバランスが変化しているため、単純に大量の水を飲めば治療できるわけではありません。水分摂取量は、症状、尿量、血液検査の結果などによって考える必要があります。

同じように、市販の利尿薬やサプリメントなどを自己判断で使用することも適切ではありません。OHSSが疑われる場合には、医療機関の指示に基づいて水分や電解質を管理します。

OHSS予防は刺激を始める前から行う

OHSS対策は、症状が出てから始めるものではありません。刺激を開始する前に、PCOSの有無、AMH、AFC、過去のOHSSや卵巣刺激への反応などを確認し、リスクを評価します。

OHSSリスクが高いと考えられる場合には、刺激法やゴナドトロピン製剤の開始量を調整します。ASRMでは、OHSSが懸念される場合にはGnRHアゴニスト法よりGnRHアンタゴニスト法を使用することを推奨しています。また、卵巣予備能などに基づいてゴナドトロピン投与量を個別化することも推奨されています。つまり、すべての人へ同じ量の刺激薬を使うのではなく、その人の卵巣反応を予測しながら治療を設計することがOHSS予防の一部になります。

刺激中の反応を確認することも予防につながる

卵巣刺激を開始した後は、超音波検査などで卵胞の発育を確認します。施設や患者の状態によっては、エストラジオールなどの血液検査を行うこともあります。

予想以上に多数の卵胞が発育している場合には、OHSSリスクを考慮して治療計画を変更することがあります。薬の量や刺激日数、トリガー方法などを変更する場合もあります。こうした変更は「卵子を減らすため」ではなく、安全に採卵へ進むための調整です。

GnRHアゴニストトリガーでOHSSリスクを下げる

卵胞が十分に発育すると、採卵前に卵子の最終成熟を促すトリガーを行います。従来からhCGが使われていますが、OHSSのリスクが高い人ではGnRHアゴニストをトリガーとして使用する方法があります。

ASRMは、GnRHアゴニストによるトリガーを、中等度から重度のOHSSを減らすための第一選択となる方法の一つとして推奨しています。ESHREの2025年版ガイドラインでも、OHSSリスクがある場合にはGnRHアゴニストトリガーと全胚凍結を組み合わせる方法が推奨されています。ただし、使用できるトリガーは刺激法やその後の移植方法などによって異なり、患者が自己判断で変更するものではありません。

カベルゴリンが使われる場合もある

OHSSのリスクが高い患者では、カベルゴリンなどのドパミン作動薬が予防目的で使用される場合があります。ASRMでは、OHSSリスクがある場合に、hCGトリガー当日またはその直後からカベルゴリンなどを使用することで、中等度から重度のOHSS発症を減らせることが示されています。

ただし、すべての採卵患者に必要な薬ではありません。使用するかどうか、開始時期、投与量、使用期間などは医師が判断します。

「全胚凍結」でOHSSを減らすことがある

OHSSリスクが高い場合に重要な方法の一つが、「freeze-only」または全胚凍結です。通常の体外受精では、採卵した周期に新鮮胚移植を行う場合がありますが、その周期に妊娠が成立すると、妊娠によって産生されるhCGの影響でOHSSが悪化したり長引いたりすることがあります。

そこで、採卵した周期には胚移植を行わず、作製した胚をいったん凍結し、身体が回復した後の周期に移植する方法が選ばれることがあります。ASRMでは、高い卵巣反応やエストラジオール高値などによってOHSSリスクがある場合に、freeze-onlyとその後の凍結胚移植を考慮することを強く推奨しています。

全胚凍結でもOHSSが完全になくなるわけではない

全胚凍結は、妊娠に伴うhCGによって起こる遅発型OHSSを防ぐうえで重要です。しかし、卵巣刺激やトリガーに関連して起こる早発型OHSSまで完全にゼロにできるわけではありません。

そのため、胚をすべて凍結した場合でも、採卵後の体調観察は必要です。「今回は胚移植をしていないからOHSSにはならない」と考えることはできません。

男女産み分けでも採卵数だけを追わない

男女産み分けを目的としてPGTを行う場合、採取した卵子がそのまま希望する性別の胚になるわけではありません。採取された卵子の中から成熟卵が受精へ進み、正常に受精した胚の一部が胚盤胞まで発育します。

その後にPGTを行った場合でも、すべての胚が移植候補になるとは限りません。また、性染色体情報を利用できる国や施設であっても、希望する性染色体構成の胚が得られることが保証されるわけではありません。そのため、「できるだけ多く採卵すれば確実になる」という考え方は適切ではなく、卵巣刺激では期待できる採卵数とOHSSを含む安全性の両方を考える必要があります。

PGT周期でもOHSSは起こる?

PGTでは胚盤胞から細胞を生検し、胚を凍結して検査結果を待つ方法が一般的に行われています。そのため採卵周期に新鮮胚移植を行わないことがあります。

しかし、新鮮胚移植をしないからといって、卵巣刺激や採卵に伴う早発型OHSSまで起こらなくなるわけではありません。PGTを予定している場合でも、刺激中のリスク評価と採卵後の観察は必要です。

海外で採卵する場合は帰国後のことまで考える

海外で体外受精やPGTを受ける場合、OHSSへの対応で特に重要なのが、採卵後の連絡体制です。OHSSは採卵直後だけに起こるものではなく、数日後に症状が強くなることがあります。

そのため、採卵後すぐに長距離移動を行う場合には、体調やOHSSリスクを担当医へ確認する必要があります。飛行機へ搭乗できる時期について、すべての人に共通する一定の日数が決められているわけではなく、卵巣の反応、採卵数、症状、使用した薬、飛行時間などによって判断が異なります。

海外治療では治療記録を持っておく

海外で採卵する場合には、刺激に使用した薬剤名、投与量、トリガーの種類と使用時刻、採卵日、採卵数、最新の検査結果などを確認できる記録を持っておくと、帰国後に医療機関を受診する際の情報になります。

また、現地の治療施設へ夜間や休日に連絡できる方法、帰国後に相談できる方法なども事前に確認しておくことが重要です。症状が強い場合には、予定していた帰国便より医療上の安全を優先する必要があります。

OHSSについて最も大切なこと

OHSSは、卵巣刺激に対する過剰な反応に関連して起こる体外受精の合併症です。軽症で改善する場合もありますが、重症では腹水、尿量低下、呼吸困難、腎機能障害、血栓症などにつながることがあります。

現在は、治療前のリスク評価やGnRHアンタゴニスト法、刺激薬の個別化、GnRHアゴニストトリガー、カベルゴリン、全胚凍結など、**OHSSのリスクを低減するための複数の予防策が推奨されています。**ただし、どの予防策を行ってもOHSSの可能性を完全にゼロにできるわけではありません。

男女産み分けを目的としてPGTを行う場合も、採卵数だけを増やすことが治療の目標ではありません。OHSSのリスクを抑えながら、その人の卵巣反応に合わせて安全に卵子を得ることが、卵巣刺激の基本です。

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