
発育速度・胚のグレード・PGT結果と移植順位を解説
受精した胚は細胞分裂を繰り返し、やがて内部に空洞を持つ「胚盤胞」へ発育します。多くの胚は受精後5日目または6日目ごろに胚盤胞へ到達しますが、中には7日目になって生検や凍結が可能な段階まで発育する胚もあります。
「5日目胚盤胞」「6日目胚盤胞」「7日目胚盤胞」という違いは、単純に数字が小さいほど正常で、数字が大きいほど異常という意味ではありません。ただし、胚が胚盤胞まで発育する速度は、移植する胚を選ぶ際に参考となる情報の一つです。集団として比較すると、発育が遅い胚では正倍数性率や移植後の成績が低くなる傾向を示した研究があります。
一方、7日目に胚盤胞となった胚でも妊娠・出生に至る可能性はあります。実際の移植順位は、発育日だけでなく、胚盤胞の拡張状態、内部細胞塊や栄養外胚葉の形態、PGT結果などを組み合わせて判断します。
男女産み分けを目的として海外で胚の性染色体情報を扱う場合も、希望する性別だけで移植胚を決めるのではなく、その胚が医学的に移植候補となり得るかを確認することが重要です。
受精した胚はどのように胚盤胞になる?
卵子と精子が正常に受精すると、受精卵は細胞分裂を繰り返します。2細胞、4細胞、8細胞などへ分割し、さらに細胞同士が密にまとまった桑実胚を経て、内部に液体を含む空洞が形成されます。
胚盤胞になると、将来おもに胎児になる部分である内部細胞塊(ICM)と、将来おもに胎盤などへ発達する栄養外胚葉(TE)が区別できるようになります。
ただし、すべての胚が同じ速度で発育するわけではありません。同じ採卵周期で作られた胚でも、5日目に胚盤胞となるもの、6日目まで発育を続けるもの、さらに7日目に生検・凍結可能な段階へ到達するものがあります。途中で発育が止まる胚もあります。
「5日目・6日目・7日目」は何を表している?
一般に「5日目胚盤胞」などの表現は、受精後何日目に胚盤胞が生検や凍結などに適した発育段階へ達したかを示すために使われます。
ただし、施設によって観察時刻や生検・凍結の基準が異なることがあります。5日目に胚盤胞らしい形が確認されても、生検や凍結に必要な拡張度まで達していなければ、6日目まで培養を続ける場合があります。
そのため、単純に「胚盤胞になった日」と「実際に生検・凍結した日」が必ず一致するとは限りません。施設間で数字を比較するときには、どの時点を基準に5日目・6日目としているのかを確認する必要があります。
5日目胚盤胞とは?
5日目までに十分に発育し、生検や凍結が可能となった胚は、比較的速く発育した胚と考えられます。
発育速度は胚の発育能力と関連する情報の一つであり、複数の移植候補胚が同じようなPGT結果や形態評価を持つ場合には、5日目胚盤胞が優先されることがあります。
ESHREとALPHAが2025年に更新した胚形態評価の国際合意でも、胚盤胞へ到達する日数は移植順位を考える際の重要な情報の一つとされています。
ただし、5日目に胚盤胞になったことだけで染色体数が正常であるとは判断できません。形態が良好な5日目胚でもPGT-Aで異数性と判定されることがあり、反対に6日目や7日目の胚でも正倍数性と判定されることがあります。
6日目胚盤胞は「質が悪い」の?
6日目胚盤胞は、5日目にはまだ生検や凍結に適した段階まで発育していなかったものの、その後の培養によって利用可能な胚盤胞へ発育した胚です。
6日目になったという理由だけで、移植できない胚になるわけではありません。現在の体外受精では、5日目と6日目の胚盤胞はいずれも広く凍結・移植されています。
ASRMの2024年PGT-A委員会見解では、5日目に生検された胚と6日目に生検された胚を比較した研究が紹介されています。この研究では、異数性率に有意差はなく、着床率、臨床妊娠率、出生率にも有意差が認められませんでした。
一方、ESHRE/ALPHAの2025年合意では、発育の遅い胚盤胞について、5日目胚と比べて着床率や出生率が低かった観察研究も整理されています。
つまり、研究結果は完全に一方向ではありません。患者背景、胚の形態、PGTの有無、凍結方法、移植周期などによって結果が変わるため、「6日目だから悪い」と一律に判断することはできません。
正倍数性の6日目胚でも出産できる?
PGT-Aで正倍数性と判定された6日目胚盤胞から妊娠・出生に至ることはあります。
ASRMが紹介するデータでも、正倍数性胚について5日目と6日目を比較した場合、出生率に明確な差が認められなかった研究があります。
そのため、5日目胚がなく6日目胚しかないからといって、「良い移植候補がない」という意味にはなりません。
ただし、複数の正倍数性胚が存在する場合には、発育日だけでなく形態評価なども含めて移植順位が決められることがあります。
7日目胚盤胞とは?
7日目胚盤胞は、5日目・6日目よりも発育に時間を要した胚です。
以前は6日目までで培養を終了する施設もありましたが、7日目まで培養を継続することで、それまで利用できる胚がなかった患者にも生検・凍結可能な胚が得られる場合があります。
ESHRE/ALPHAの2025年合意では、現在の臨床胚培養は4~7日目の胚盤胞までを対象としており、7日目胚盤胞も生存可能で、臨床利用を検討できるとしています。
そのため、「7日目になった胚は移植できない」という理解は正しくありません。
7日目胚は5日目・6日目より成績が低い?
集団として比較した研究では、7日目胚盤胞は5日目・6日目胚盤胞より正倍数性率や移植成績が低い傾向が報告されています。
ASRMの2024年委員会見解で紹介された研究の一つでは、PGT-Aで正倍数性と判定された7日目胚でも妊娠が成立していましたが、別の研究では7日目胚の正倍数性率が5日目・6日目より低く、正倍数性胚を移植した後の着床率、臨床妊娠率、出生率も低い結果となりました。
このためASRMは、利用可能な5日目・6日目胚がある場合には、それらを7日目胚より優先することを支持するデータがあるとしています。
ただし、これは7日目胚に出生可能性がないという意味ではありません。移植候補が7日目の正倍数性胚だけであれば、十分に移植を検討できる場合があります。
「7日目=染色体異常」ではない
7日目胚では異数性の割合が高い傾向を示した研究がありますが、発育日だけから個々の胚の染色体状態を判断することはできません。
7日目胚の中にもPGT-Aで正倍数性と判定される胚があります。また、5日目胚であっても異数性胚は存在します。
発育速度と染色体数には集団として関連がみられる場合がありますが、発育日をPGT-Aの代わりとして使用することはできません。
胚盤胞の「4AA」「5AB」とは?
胚盤胞を評価するときには、「4AA」「5AB」などの数字とアルファベットを組み合わせた表記が使われることがあります。
広く使われているGardner分類では、数字は胚盤胞がどの程度広がっているか、あるいは透明帯から脱出する段階まで進んでいるかを示します。続くアルファベットは、内部細胞塊(ICM)と栄養外胚葉(TE)の形態を評価します。
つまり、同じ5日目胚盤胞でもすべて同じ状態ではありません。発育日だけでなく、胚盤胞がどの程度拡張しているか、ICMやTEがどのような形態を示しているかも評価されます。
AAなら必ず妊娠する?
形態評価が良好な胚ほど高い着床率と関連する傾向がありますが、AAという評価でも妊娠が保証されるわけではありません。
反対に、BやCを含む胚から妊娠・出生することもあります。
ESHRE/ALPHA 2025では、胚盤胞へ到達した日、拡張段階、ICM、TEはいずれも着床可能性を考える際に関連する情報とされています。同時に、これらの項目をどの程度重視すべきかについては、さらに大規模な解析が必要とされています。
また、C評価を含む胚や7日目胚であっても、生存可能で臨床利用を検討できるとしています。
胚のグレードとPGT-Aは別の検査
胚盤胞の形態評価とPGT-Aは、見ているものが異なります。
形態評価では、顕微鏡で胚の発育状態やICM、TEなどの外観を確認します。一方、PGT-Aでは胚盤胞の栄養外胚葉から少数の細胞を採取し、染色体コピー数に関する情報を解析します。
そのため、形態が良い胚だから正倍数性とは限らず、形態評価が低いから異数性とも限りません。
発育日、形態評価、PGT-A結果は、それぞれ異なる情報として考える必要があります。
PGT-Aにも限界がある
PGT-Aでは、胚盤胞の栄養外胚葉から採取した少数の細胞を解析します。そのため、胚を構成するすべての細胞を直接調べているわけではありません。
結果には正倍数性、異数性のほか、施設や検査法によってモザイクや判定不能などが含まれることがあります。
PGT-Aには技術的・生物学的な限界があり、正倍数性と判定された胚でも着床や出生が保証されるわけではありません。
ASRMも、PGT-Aをすべての体外受精患者に対する一律のスクリーニングとして使用する利益は確立されていないとしています。
複数の正倍数性胚がある場合は何を優先する?
PGT-Aで複数の正倍数性胚が得られた場合、発育日や形態評価などを利用して移植順位を決めることがあります。
一般的には、発育が早く形態が良好な胚が優先される場合があります。ただし、移植順位を決める方法は施設によって異なります。
重要なのは、「5日目だから正倍数性」「7日目だから移植できない」という判断ではないことです。
まずPGT結果などから移植候補となり得る胚を確認し、その中で発育日、形態、凍結融解後の状態などを総合して判断します。
発育日から赤ちゃんの性別は分かる?
胚が5日目・6日目・7日目のどこで胚盤胞へ到達したかを見ても、その胚が男児になるのか女児になるのかを確実に判断することはできません。
胚の発育速度と性別の割合について関連を報告した研究はありますが、それは集団レベルでの傾向です。個々の胚について、5日目なら男児、6日目や7日目なら女児と判断することはできません。
同様に、4AA、5ABなどの形態評価から性別を判断することもできません。
性染色体に関する情報は、発育日や外観とは別の遺伝学的情報です。
男女産み分けでは「希望する性別」と胚の評価は分けて考える
海外の一部の国や地域では、PGTで得られた性染色体情報を利用した男女産み分けが行われています。
その場合でも、希望する性別であることだけで、その胚が最も優先される移植候補になるとは限りません。
たとえば、希望する性別の胚が7日目胚だけであったり、形態評価が他の胚より低かったりする場合があります。
その場合には、発育日、形態、PGT結果、施設が持つ移植成績などを確認したうえで、移植するか、再度採卵するかなどを検討することになります。
7日目まで培養するかは施設によって違う
すべての体外受精施設が7日目まで胚を培養しているわけではありません。
6日目までで培養を終了する施設もあれば、6日目時点で一定の発育を示している胚について7日目まで観察する施設もあります。
また、7日目胚を生検・凍結する基準や、その後の移植順位についても施設ごとに異なることがあります。
ESHRE/ALPHA 2025では、胚培養の期間や観察時刻について、培養環境への影響をできるだけ小さくしながら、一貫した評価を行うことが重要とされています。
5日目・6日目・7日目胚で大切なのは「数字だけで決めない」こと
5日目胚盤胞は比較的速く発育した胚で、移植順位を考えるうえで有利な情報となる場合があります。6日目胚盤胞も広く臨床利用されており、正倍数性胚であれば良好な妊娠・出生成績が報告されています。
7日目胚盤胞は、集団としては5日目・6日目より正倍数性率や移植成績が低い傾向を示す研究がありますが、正倍数性の7日目胚から妊娠・出生することも確認されています。
そのため、5日目・6日目・7日目という発育日の違いは重要な情報ではあるものの、それだけで胚の価値や移植可否を決めることはできません。
実際の胚選択では、発育日、拡張段階、ICM・TEの形態、PGT結果などを総合して判断することが重要です。