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PGT-Aで使われるNGSとは?

PGT-Aでは、胚盤胞から採取した少数の細胞を使い、染色体数の過不足に関する情報を調べます。その解析方法として広く使われているのが、NGS(次世代シーケンシング)です。ただし、NGSを使えば胚のすべての遺伝情報が分かるわけではなく、正倍数性という結果が健康な子どもの出生を保証するものでもありません。また、X・Y染色体を解析できることと、その情報を男女産み分けに利用できることは別です。この記事では、PGT-AでNGSがどのように使われるのか、モザイクや判定不能、性染色体情報の扱い、日本と海外での違いまで、現在の医学的知見をもとに分かりやすく解説します。

基礎知識
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染色体を調べる仕組み・性染色体情報・検査の限界を解説

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)では、胚盤胞から採取した少数の細胞を使い、染色体数の過不足に関する情報を調べます。現在、PGT-Aで広く利用されている解析方法の一つがNGS(Next-Generation Sequencing、次世代シーケンシング)です。

「シーケンシング」と聞くと、胚のDNAをすべて読み取り、将来の病気や体質、能力まで分かる検査を想像するかもしれません。しかし、一般的なPGT-AでNGSを使う主な目的は、染色体ごとのDNA量を比較し、コピー数の過不足を推定することです。胚のすべての遺伝情報を調べる検査ではなく、将来生まれる子どもの健康を保証するものでもありません。

また、解析対象にX染色体とY染色体が含まれていれば、性染色体構成に関する情報が得られる場合があります。ただし、技術的に解析できることと、その情報を患者へ開示したり、男女産み分けに利用したりできることは別です。

PGT-Aは何を調べている?

人の体細胞には通常、1番から22番までの常染色体が2本ずつあり、これに性染色体が加わります。ある染色体が通常より多い、または少ない状態は「異数性」と呼ばれます。

PGT-Aは、染色体を顕微鏡で一本ずつ数える検査ではありません。胚から採取した細胞のDNAを解析し、それぞれの染色体に由来するDNA量を参照データなどと比較することで、コピー数の増減を推定します。

ASRMの2024年委員会見解では、PGT-AにはFISH、aCGH、qPCR、SNPアレイ、NGSなど複数の技術が使用されてきたことが整理されており、現在はNGSやSNPマイクロアレイなどが利用されています。

胚盤胞のどこを検査する?

現在のPGT-Aでは、一般に胚盤胞の外側にある栄養外胚葉(TE)から少数の細胞を採取します。栄養外胚葉は将来おもに胎盤などを形成する部分で、胎児になる内部細胞塊(ICM)そのものを直接生検するわけではありません。

採取された細胞は遺伝学的検査室へ送られ、胚本体は通常凍結保存されます。そのため、PGT-Aの結果は「胚全体のすべての細胞を直接検査した結果」ではなく、採取した一部の細胞から得られた情報です。

この点は、後で説明するモザイクや偽陽性・偽陰性など、PGT-Aの限界を理解するうえでも重要です。

少ないDNAをNGSでどう調べる?

胚盤胞から採取できる細胞は少数なので、そのままでは解析に十分なDNA量がありません。そこで、一般に全ゲノム増幅などによってDNAを増やし、解析用の試料を作ります。

NGS装置では、多数のDNA断片を並行して読み取ります。その後、解析ソフトウェアによって、それぞれのDNA断片がどの染色体に由来するかを確認し、染色体ごとの相対的なDNA量を評価します。

ある染色体由来のDNA量が基準より多ければコピー数増加、少なければコピー数減少の可能性として解析されます。

NGSならすべての遺伝情報が分かる?

分かりません。

NGSという技術自体にはDNA配列を読み取る能力がありますが、PGT-Aではその技術を主に染色体コピー数の評価に利用しています。特定の遺伝子を一つずつ調べ、あらゆる病気の原因となる遺伝子変化を探しているわけではありません。

したがって、「NGSを使っているから胚の全遺伝情報が分かる」「将来の病気をすべて予測できる」という理解は正しくありません。

特定の単一遺伝子疾患について調べる場合には、PGT-Mなど目的に応じて設計された別の検査が必要になります。

PGT-Aではどこまで分かる?

現在のPGT-Aでは、1~22番の常染色体とX・Y染色体について、コピー数に関する情報を解析できます。

検査条件によっては、染色体全体の増減だけではなく、一部分にコピー数変化がある分節型の結果や、中間的なコピー数を示す結果が報告されることもあります。

ただし、どの程度小さい染色体変化まで検出・報告するか、どこからをモザイクとして分類するかなどは、NGS装置、DNA増幅方法、解析ソフトウェア、検査室の基準によって異なります。

「全染色体を調べる」という表現は、すべての遺伝子異常を検出できるという意味ではありません。

正倍数性なら健康な赤ちゃんが保証される?

PGT-Aで正倍数性に相当する結果が出ても、健康な子どもの出生が保証されるわけではありません。

正倍数性という結果は、採取した細胞について、PGT-Aが対象とする染色体コピー数に大きな過不足が検出されなかったという意味です。PGT-Aでは調べられない遺伝学的変化や、染色体とは別の原因による病気もあります。

また、正倍数性胚でも着床しない場合や、妊娠後に流産する場合があります。ACOGも、PGTで正常または陰性に相当する結果が得られても、遺伝学的異常のない子どもの出生を保証するものではないと説明しています。

「モザイク」とは何?

モザイクとは、本来、同じ胚や個体の中に異なる染色体構成を持つ細胞集団が存在する状態です。

ただし、PGT-Aで「モザイク」と報告された場合、生検した細胞を一つずつ直接観察して正常細胞と異常細胞を数えているわけではありません。複数の細胞に含まれるDNAをまとめて増幅・解析し、中間的なコピー数が検出された場合にモザイクの可能性があると推定します。

ASRMは、中間コピー数の原因が真のモザイクだけとは限らないことを指摘しています。DNA増幅のばらつき、検体へのDNA混入、生検方法、解析上の変動などでも中間的な値が生じる可能性があります。

「モザイク30%」は胚の30%が異常という意味?

必ずしもそうではありません。

PGT-Aで示されるモザイク率は、胚全体の細胞を数えて「30%が異常だった」と直接測定した数値ではありません。生検した少数細胞から得られたDNA量の中間値をもとに推定されたものです。

さらに、モザイクの分類方法や境界値は検査室によって異なる場合があります。同じような解析結果でも、ある検査室では低率モザイク、別の検査室では正倍数性または異数性として扱われる可能性があります。

そのため、モザイク結果については数値だけを見るのではなく、検査施設の判定基準や結果の意味について説明を受ける必要があります。

モザイク胚から出生することもある?

PGT-Aでモザイクに相当する結果が報告された胚でも、移植後に妊娠し、出生へ至った例があります。

一方、正倍数性胚と比較すると、着床率や妊娠継続率などが低い可能性を示した研究もあります。そのため、モザイク胚を単純に「正常」「異常」の二択だけで扱うことはできません。

ほかに利用できる正倍数性胚があるか、どの染色体にどのような結果が出たのか、全染色体型か分節型かなどを含めて判断します。移植を検討する場合には、遺伝カウンセリングが重要になります。

PGT-Aで「判定不能」が出ることもある

PGT-Aでは「no result」「inconclusive」など、十分な結果を得られない場合があります。

採取された細胞が少ない、DNA増幅が十分に行われなかった、解析データが検査室の品質基準を満たさなかったなど、原因はさまざまです。

判定不能は「正常」でも「異常」でもありません。施設によっては胚を融解して再生検し、再び凍結して検査する方法が検討されることがあります。

ただし、再生検は胚への追加操作を伴い、再検査しても必ず結果が得られるわけではありません。

PGT-Aにも偽陽性・偽陰性がある

PGT-Aは高度な検査ですが、100%正確な確定診断ではありません。

栄養外胚葉から採取した少数の細胞と、胚のほかの部分の染色体構成が完全には一致しない場合があります。また、DNA増幅や解析などの技術的な要因によって、結果が胚全体の状態を完全には反映しない可能性もあります。

ACOGは、PGTには偽陽性と偽陰性が起こり得ることを説明しています。

このためPGT-Aは、胚全体を直接調べた絶対的な診断結果としてではなく、移植候補を検討するための遺伝学的情報として理解する必要があります。

NGSでX・Y染色体も分かる?

一般的なPGT-Aでは、1~22番の常染色体とともにX・Y染色体も解析対象となる場合があります。そのため、技術的には性染色体構成に関する情報を得ることができます。

一般的なXX・XYに相当する結果だけではなく、性染色体の数的変化などが検出される場合もあります。

ただし、ここで重要なのは、「性染色体を解析できること」と「患者が性別情報を自由に知り、希望する胚を選べること」は別だという点です。

検査会社が解析する情報、医療機関へ報告する情報、患者へ開示する情報、胚選択に利用できる情報は、それぞれ異なる場合があります。

性染色体から将来の「性」がすべて分かるわけではない

PGT-AでX染色体・Y染色体に関する情報を得ることはできますが、それだけで将来の性自認や性別表現、身体的特徴のすべてを予測できるわけではありません。

また、性分化に関係する医学的な状態には、単純なXX・XYだけでは説明できないものもあります。

そのため、医学記事では「PGT-Aで性別を100%確定できる」と表現するより、**「性染色体構成に関する情報を得られる場合がある」**とする方が正確です。

日本のPGT-Aでは性染色体情報は原則開示されない

日本産科婦人科学会の現在のPGT-A・PGT-SRに関する規定では、性染色体に異常がない場合、性染色体に関する情報を患者へ開示しないことが定められています。

外部検査機関からART施設へ通常の結果を報告する場合も、性染色体情報は除外されます。

一方、性染色体に何らかの異常が認められた場合には、遺伝医療の専門家による遺伝カウンセリングを行い、医学的に必要と判断された場合に情報が扱われることがあります。

つまり、日本の不妊症・不育症を対象としたPGT-AやPGT-SRは、希望する性別を選択するための制度ではありません。

海外なら男女産み分けに利用できる?

海外では、性染色体情報の開示や非医学的な性選択について、国・地域によって制度が異なります。また、法律上禁止されていない国でも、すべてのクリニックが男女産み分けを提供しているとは限りません。

そのため、「PGT-AでX・Y染色体を解析できる」というだけでは、希望する性別の胚を選択できるとは判断できません。

検査会社が性染色体を解析するか、医療機関へ情報を報告するか、患者へ開示するか、希望する性別を理由に胚を選択できるかを、それぞれ確認する必要があります。

男女産み分けではNGSの「精度」だけを見ない

海外で男女産み分けを検討すると、「最新NGS」「高精度PGT」といった説明を見ることがあります。しかし、NGSを使用しているという事実だけで、検査の質や結果の扱いまで判断することはできません。

検査室によって、モザイク判定の基準、分節型変化の報告範囲、判定不能時の対応、性染色体情報の開示方法などが異なる場合があります。

そのため、検査を受ける前には、何を解析するのか、どの結果を患者へ開示するのか、モザイクや判定不能の場合にどのように扱うのかを確認することが重要です。

PGT-Aを受けたら出生前検査は不要?

PGT-Aを行った胚で妊娠しても、妊娠中の出生前検査が不要になるわけではありません。

PGT-Aでは胚盤胞の一部の細胞しか調べておらず、すべての遺伝学的・先天的な状態を対象としているわけでもありません。

ACOGは、過去のPGT結果にかかわらず、妊娠後には出生前スクリーニングと出生前診断の選択肢を提示すべきとしています。

NIPTなどはスクリーニング検査であり、絨毛検査や羊水検査は診断検査です。それぞれ目的と限界が異なるため、妊娠後にあらためて産科医や遺伝医療の専門家と相談します。

NGSで最も大切なのは「分かること」と「分からないこと」を分けること

NGSを利用したPGT-Aは、胚盤胞から採取した少数の細胞について、染色体ごとのDNA量を解析し、コピー数の過不足に関する情報を得る検査です。常染色体だけでなくX・Y染色体も解析対象となる場合があり、検査条件によってはモザイクや分節型のコピー数変化などが報告されることもあります。

一方、PGT-Aは胚の全遺伝情報を調べる検査ではなく、胚全体を直接検査するものでもありません。 モザイク判定、判定不能、偽陽性・偽陰性、PGT-Aでは検出できない遺伝学的変化などの限界があります。

また、性染色体を技術的に解析できることと、その情報を患者へ開示したり、男女産み分けに利用したりできることは別です。

男女産み分けを目的として海外でPGTを検討する場合も、「NGSだから正確」という説明だけを見るのではなく、何を解析し、何を報告し、その結果をどのように利用できるのかを分けて確認することが重要です。

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